ファースト・コンタクトの続き











 
 昼休みの校内の騒がしさといったら何と喩えていいか悩む程に、強いて言うならば動物園といったような、溜め息をつかざるをえない種のものだ。頭のいい連中だっているというのに、様々な種類の人間がいるおかげでこの学校は半ばカオス状態だ。主に体育科が原因だが、成果を残しているのは事実なわけで。
 サスケはコンビニ袋をぶらさげて、廊下を歩いていた。二年の教室は三階にあり、その上の四階は特別教室で昼休みになればほとんど人はいない。しかしそこですら下の階の喧騒が響いている。毎度毎度やかましい、とサスケは苦々しい表情を浮かべながら屋上へ続く階段を上った。もちろん生徒の屋上への出入りは禁止されているのだが、気にしない。屋上の扉には鍵がかかっているがサスケにとって問題ではない。ポケットから鍵を取り出し、回す。ガチャリと音を立て、ノブを回すと扉が開いた。屋上に出て、再び鍵を締め、屋上で唯一涼しい日陰に移動する。太陽に近く照り返しも厳しい屋上は空調の効いた教室よりも断然暑い。しかし日陰となると人のひしめく教室よりもよっぽど心地よい涼しさだ。
 腰を下ろして小さく息を吐く。一人になった安心感から元々緩んでいたネクタイを更に緩めた。コンビニ袋からトマトジュースを取り出し、ストローを挿す。サスケはストローに口をつけ、トマトジュースを飲んだ。

 ガタ、と屋上の扉が動く。サスケは動きを止めてその様子に目を細めた。もう屋上へ来るようになって長いが、立ち入り禁止の屋上へ来る輩と会ったことはない。扉を開けようとしたようだがもちろんサスケが鍵を掛けたのだから開くはずはない。どうやら諦めたのか扉はそれから音を立てる様子はない。サスケが再び口許にトマトジュースを持ち上げた時、窓から音がし、直後に開く音がした。


「窓…開くのか…」


 サスケは思わず感想をもらした。窓から屋上へ出てきた影が暑そうに太陽を遮るように手をかざした。その横顔に、サスケは見覚えがあった。クラスメイトの、奈良シカマル。授業中にいつも寝ている印象しかない。それから確か、体育科の派手な二人と普通科のでかいやつといつも一緒にいる。
 そこに立ち尽くし動く様子を見せないシカマルに、サスケは思わず声をかけてしまった。自分でも驚き、シカマルに分からないように動揺する。シカマルもサスケに驚いたのか、何も言おうとしない。


「……暑くねえのか?」


 サスケの言葉で我に返ったのか、サスケのいる日陰まで歩き、豪快に腰をおろす。汗を拭ってうだるような暑さに溜め息をつき、シカマルはやっと言葉を発した。


「あっっっちィよ」
「……だよな」


 苦笑してトマトジュースを流しこむ。シカマルは暑そうに顔を扇ぎ、流れる汗を拭う。持ってきた弁当を広げ、ペットボトルのお茶を飲み、シカマルはサスケのコンビニ袋の中を見る。中にはおにぎりがひとつとカロリーメイトが入っている。


「お前…それだけ?」
「ああ」


 コンビニ袋の中を指差し信じられないという表情を見せるシカマルにサスケは首を傾げる。親がいないサスケは自分で弁当を作らなければならない。普段ならば弁当を作っているのだが、今日は朝起きるのが遅かったこともあり、作るのが面倒だったのである。それから夏バテで食欲が若干減退しているというのもある。一応はサスケもがっつり食事を取る健全な男子高生である。


「腹減らねーのか?」
「いや……暑いからな」
「…夏バテか。気をつけろよ」
「今更だな…」


 まともに会話したのは初めてだった。サスケが学校で会話する相手はかなり限られている。サスケはシカマルと絡んでいるナルトやキバというタイプの人間は苦手なために特に近付かなかった。サスケはおにぎりの封を開けて、少しかじって飲み込んだ。


「それ中身何だ?」
「おかか」
「好きなのか?」
「嫌いだったら買わねえだろ」
「それもそうか」


 シカマルは食事をしながら器用に会話し、既に半分以上を胃におさめている。サスケがおにぎりを食べる間に弁当を全て平らげてしまった。お茶を流し込み、背を伸ばしてごろりと横になった。


「食べて直ぐ寝ると牛になんぞ」
「お前は俺のおかんか。…なあ、うちは」
「…苗字で呼ばれんの好きじゃねえ」
「へぇ。じゃあ…サスケ、お前何でこんな所で昼飯食ってんだ?」
「教室は人が多い。騒がしい。うざい」
「まあ分からんでもねーな」
「お前は何でここに来たんだよ?」
「シカマルな。なんとなくお前をストーキングしてみた」


 あからさまに引いた素振りを見せるサスケに冗談だ、とシカマルはおどけて言った。 ふ、と笑みを漏らすサスケに計らずも見蕩れてしまいシカマルは自己嫌悪に陥った。肌蹴たシャツから覗く白い汗ばんだ肌、優雅に口許へと持ち上げられる白く細い指。妙な気分になる、なんて男として終わってる。サスケはカロリーメイトの内包の中を覗き、シカマルを見た。視線がかち合いシカマルはたじろぐ。


「シカマル、カロリーメイト食わねえ?」
「へ?」


 食べるのを止めたのか一本残ったカロリーメイトを差し出している。しばらく迷ったが、シカマルはカロリーメイトを受け取った。チーズ味のそれはなんだか特別な味がした気がした。ふと、サスケの胸ポケットからストラップが覗いているのが目に入る。


「…携帯か」
「ああ…携帯だが何か」
「いや別に…あ、よかったらアドレス教えて」
「別にいいけど。赤外線?」
「ああ。じゃ送ってくれ」


 赤外線でアドレスを交換するというのはサスケにとって何度もある体験ではない。携帯に入っている学校での知り合いのアドレスは実に少ない。奈良シカマル、その名前を友人のカテゴリに入れ、サスケは携帯を閉じた。


「なあ、サスケ」
「何だ?」
「明日も来ていいか?」
「は?あ、いや…構わねえよ」
「じゃあ明日も…つかお前、どうやって入ってんだ?」
「ん」


 シカマルの質問にポケットから古い鍵を取り出し目の前に差し出す。シカマルは驚いた表情をしたあとに怪訝な表情に変わり、入手経路を尋ねた。


「兄貴から受け継いだ」
「へー、お前兄貴いんのか。つか兄貴何者」
「夢追い人ってとこ」
「んだそれ」


 面白そうに笑ったシカマルは本格的に寝る体勢になる。サスケはその様子を少し見た後同じく目を閉じる。そのまま本当に寝てしまいそうだと思いながらあくびを噛み殺し、腕を組む。シカマルが寝返りをうつのを感じている間に意識がぼんやりとしていく。次の授業は何だったかと考えることもままならなくなった。



昼下がりの侵入者
(学校でまともな会話したの久しぶり…)(別に友達いないとかじゃなくて!)




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