見知った後ろ姿に声を掛ける。優雅に振り向いたサスケの目元は僅かに赤く染まっていた。名前を呼んでみても疑問符を浮かべサスケは首を傾げるだけだった。

「何かあったのか?」
「…何もない」

 何を聞いたって話すはずもないことは分かっている。予想通り薄く笑って首を振るだけだった。手を伸ばせば届く、その距離40センチ。それなのにオレにはその距離が永遠に続くようにすら感じられる。いつだってサスケはどうしようもなく遠い。

「何か用か?」
「…いや、特に。急いでんのか?」

 別に、とこぼすように呟いたサスケはまた首を振った。柔らかい髪がふわりと舞って、爽やかな香りが鼻をくすぐる。遠い。あまりにも遠すぎる。このままサスケを見送れば、この距離は永遠に変わらない。そんな気がして、気付いた時には触れていた。赤くなった目元をなぞって頬を撫でて、このまま抱き締めることが出来たなら。驚いて目を丸くしたサスケに苦笑しつつ、小さな声で謝罪を口にする。一体それは何についての謝罪なのか、自分自身にも分からない。

「…なんだよ」
「分かんね」
「………、」

 目元を隠してしまったサスケの腕を掴んでそのまま抱き締める。後先なんか考えている余裕はない。少しだけ力が籠ったサスケの拳をゆっくり開かせて遠慮がちに握った。

 耳元ですすりなくサスケの小さな背中を優しく撫でて、心の中でもう一度謝罪を口にした。分かり得るはずもない。サスケの心に誰がいるのかなんて、知り得るはずがない。この皮膚がオレとサスケを隔てる限り本当にサスケを理解出来るはずがないのだ。


13:涙


 だってオレはその涙の理由を知らない。

 

100804改編

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