突然、空が暗くなった。
 外に目をやると空は厚い真っ黒な雲に覆われている。一雨来そうだ、と思った時には大粒の雨が降り出した。ゴロゴロとあまり心地のよくない音まで響いている。夏特有の突然の天気の変化には困りものだ。
 外に干した洗濯物をどうしてくれる。また洗わなければならない上にまた干すなんて二度手間だ。とは言っても、洗濯物を洗うのも干すのもオレではない。だってオレの家じゃないし。なんてことを外をぼんやりと見ながら思っていると後ろでガタガタ音がする。見ると洗濯物を取り込んできたサスケが器用に両手が塞がった状態でドアを開けたところだった。

「取り込んできたのか」
「取り込んでる途中だった。危うく濡れるとこだったぜ」
「お疲れ、手伝わなくて悪かったな」
「別に」

 サスケは適当なところに洗濯物を放ってソファーに腰かけた。だが落ち着きなさそうに外を見やる。空は相変わらず暗いままで時折雲の薄い部分は光を発している。サスケは嫌そうな顔をした後立ち上がり、寝室の方へ歩いていった。

「サスケー?」
「なんでもねえよ」
「……あー」

 思い当たった。
 すぐにサスケの後を追って寝室に入る。その時窓から光が入ってきた。うわ、と思い一瞬足を止め、再び歩き出した時にかなり大きな雷鳴が響いた。これは多分、結構近くに落ちた。目の前には、思いきり肩を揺らしたサスケがいる。

「雷怖い?」
「…得意じゃねえな」
「雷遁使うのに?」
「関係ねえだろ」

 後ろから近付いて頭をくしゃくしゃと撫でる。雨に濡れたおかげでくせ毛が元気いっぱいになっている。布団に包まろうとしていたサスケを布団ごと抱き締めた。抵抗しない辺り、やはり怖いらしい。サスケはまだ嫌そうに外を見ている。布団を払い退けてサスケを腕の中に収める。心臓が早鐘を打っている。こんな小さなことが可愛くてしょうがない。

「サスケ」
「なんだよシカマ、ん」

 何も言わせないように無理やり唇を塞ぐ。体をこちらに向けて、ベッドに押し倒す。耳を塞いでキスをして、サスケが感じるのは俺だけ。薄く目を開けた先には寄せられた眉がある。仕方なく耳を塞ぐ手を離して眉間をぐりぐりと押した。目を開いたサスケは少しだけ不機嫌そうにしたあとふっと息をついた。

「これだったら雷なんて気になんねえだろ?」
「…アホか」

 憎まれ口を叩いても心音が少し穏やかになったのは隠せない。ほんの少し表情も和らいだように見えるのは勘違いじゃないはずだ。今度はサスケから、首に回した腕でより近付いて、キス。また大きな雷鳴が響くが今度はサスケは何の反応もしなかった。






「サスケ」

 寝転んで動かないサスケに呼び掛ける。ゆっくりとした仕草で俺を見たサスケに窓の外を示した。

「…晴れた」
「通り雨…まあ夕立だからな。夏にありがちの」
「ハタ迷惑だ」
「確かにな」

 サスケは体を起こして窓の外を見る。嫌そうな、不安そうな気配はない。雨が降ったせいか湿度が上がったようで、指はしっとりと背中を滑る。指に沿って視線を滑らせると白い肌にいくつかの赤い痕が目に飛び込んでくる。サスケが気付かないうちに消えてくれることを祈る。

「寒くねえか?」
「だるい」
「それは聞いてねえって…悪かったな」

 窓を見つめるばかりだったサスケが振り向く。穏やかに笑うサスケはきっと世界で一番綺麗だ。そう口にすればきっと夏の暑さに頭がやられたのだと言われてしまうだろう。その瞬間に、唇に柔らかい感触。よく知ったサスケの唇。

「ありがとう」
「ん?」
「…おかげで雷が気にならなかった」

 そんなことか、と思った。俺自身も良い思いをした訳だから寧ろ俺が礼を言うべきだ。しかしはにかんで笑うサスケにつられて笑顔になってしまう。
と、視界の中に気になるものが。

「サスケ、虹」
「どこ?」
「向こう」

 その方向を指さすとサスケはまた外を見て目を凝らす。だが薄い虹は発見するのは中々困難なようだった。

「見づれえな。綺麗に出ろよ」
「無茶言うなって…でもなんかこう、なあ? どうせならドラマっぽく綺麗な虹を期待するよな」
「空も空気読んで綺麗な虹作れよな」

 散々好き勝手な文句を言ううちに、虹は消えてしまった。薄くてほんの一瞬しか見えなかった。だが確かにサスケは虹を見て笑っていたので全部チャラだ。


 心の中で、また近いうちに夕立がくることを祈ったことはサスケには秘密だ。




雨のち虹
(あんな綺麗な虹、初めて見た!とか言う流れだったよな、どう考えても)(自然には叶わねえよ、てかお前んなキャラじゃねえから)



100312 改変 

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