非常にめんどくせー相手に恋をした。きっかけは何だったか、とにかく恋に落ちた。まさしく突然に始まった恋はオレを振り回しそして驚くべきことに、実った。
夢か?、と頬をつねってみるが普通に痛い。先日人生初の告白をしてから寝る度に次に目覚めると全て夢だった、なんてオチではないかと思ってしまう。夢オチだなんて冗談じゃない。だが会話に恋人同士の雰囲気が出たわけでもなく、白昼夢でも見ただろうかと思う。
「シカマル?」
サスケの問掛けに我に返る。せっかくサスケの家に来ているというのにオレときたら何を考えているのやら。頬杖をついてぼんやりとオレを見ていたサスケは鬱陶しそうに前髪を払った。
「前髪そんな気になんのか?」
「伸びたからな」
「切れば?」
「気が向いたら」
「…向かねえの?」
「うん」
うんって。ちょこちょこ可愛い口調になるのが気になる。普段口調が荒い、というかまあ良い方ではないだけに、ギャップがある。これが最近流行りのギャップ萌えというやつか!わかってる。我ながらアホだと思う。
「お前は髪長くて邪魔じゃないのか?」
「オレはひとつにまとめてるし、邪魔になんねーな」
「何で伸ばしてんだ?」
「別に意味はねーよ。つか、髪切るのがめんどくせー」
「あー分かる。オレも髪切るのめんどくせー」
オレの口調を意識的に真似るような面白がった口調でサスケが笑う。案外笑う奴だと知ったのはサスケを好きになってからだ。前髪をくるくる指に巻きつけて放すのを繰り返す。あれだけ巻きつけられても真っ直ぐに戻る髪のしなやかさは羨ましい奴から見れば羨ましいんだろう。オレの髪はストレートだが、俗にいう剛毛だからあまり人に羨ましがられない。サスケのは柔らかい猫毛でしなやかで綺麗で、だがクセ毛だ。でも切るなんて、もったいない。サスケの髪に手を伸ばして掻き回した。
「なんだよ」
「お前の髪が好きだからよー、伸ばしてみねえ?」
「髪が長い子が好きなのか」
「いやそーじゃなくて」
「オレが長髪?……無くねえ?」
「有りだろ多分」
「…やっぱねーよ」
オレの手から逃げてサスケは髪を直している。さらさらと簡単に元通りの髪の毛は感心してしまう。サスケは何か思いついたようにオレに近付いてくる。その表情はやけに楽しそうで少し身を引いた。ろくでもねーこと考えてるんじゃないだろうな。伸びてきた手はオレを通り過ぎて、頭に何か当たったように思った途端上でまとめていた髪がバラバラと落ちてきた。サスケの細く長い指には髪をまとめていたゴムがかかっている。
「お前な…」
「たまには髪型変えてみたらどうだ?」
フフン、とでも言いたげに笑ったサスケは再びオレに手を伸ばして髪に触れる。前髪(と言っても長すぎて他の髪と区別がつかない)を前に流して満足そうに頷いた。するとサスケは何かに気付いたように前髪に触って呟いた。
「そういや初めて髪下ろしたとこ見たな」
「おーそうか」
「なるほどな、うん、分かった」
「はぁ?何が?」
「お前は髪を下ろすな」
「どういう意味だお前」
「もったいない」
「はぁ?」
「オレだけのにするから外で髪下ろすなって言ってんだよ」
おおう。これが独占欲というやつか。しかしまあ、うん、悪くねえ。顔が緩むのを隠すように手で口を塞ぎ、肯定の意を伝えた。何言ってるか分かんねえという言葉を賜ったが構わない。
「サスケだけのオレな、いいけどよ。じゃあオレだけのサスケは?」
「えー」
「ブーイングしてんなよ」
「何かあるか?オレ大して変わらねえだろ」
「オレだけのサスケ、やっぱ欲しいって」
「めんどくせー」
このやろう。考える気も無さそうな、実はオレよりもめんどくさがりなんじゃねーか疑惑が浮かんだサスケは頬杖をついてオレを見つめるだけだ。でもなんか、この会話はそれっぽくて好きだ。古典的なひらめきの動作をしたかと思うと、唇に柔らかい感触と目の前にアップなサスケの顔。離れていく時の勝ち誇ったサスケの顔はどうしたことか、悔しいくらいに色気がある。
「でもまー、キスする時の顔はお前しか見れねえと思うんだがどうだ」
もうお手上げだ!サスケの唇に今度はオレからキスをして口端を吊り上げていたサスケの顔をポカーン顔に変えてやった。
「それで納得しといてやるよ」
「不意打ち」
「お互いさま」
少し不服そうに俺を見た後ふっと笑いをもらした顔は穏やかだった。サスケといる限りめんどくせーなんて言ってられねえ、なんてめんどくせーことを思った。
03:めんどくせー
100804改編