今年の梅雨は、比較的雨が少ない。と、情報として聞いたのは昨日のことだったが今日は一転、梅雨らしい雨日だった。厚い梅雨雲が空一面を多い、朝から夕方のような薄暗い一日だ。まるでこの空はオレの心模様を映し出しているようだ。なんてありがちな表現を使ってみても薄ら寒いだけだった。


 突然舞い込んだ暇がオレを苦しめていた。昼前までは走り回るように忙しかったというのに昼過ぎに急に空き時間が出来た。雲を見ても動きのほとんどない空は面白みがなくつまらない。何をするでもなく昼寝でもしてやろうかとも思ったがあまりに味気ない。久々に自由な時間が出来たのだがら有意義に過ごすのが正しい判断だろう。オレにとって意味があること。オレは思い立って、ある場所に足を向けた。


 嫌な雨だとは思うがオレの決意は固い。この程度の雨に阻まれるほどの気まぐれではない。誰のものか分からない傘を勝手に拝借して賑やかな通りを抜け目的の場所まで歩く。アイツが今日非番なのは調査済みだ。誰だって気になる奴のスケジュールぐらい見ておきたいと思うことだってあるだろう。オレも例に漏れず確認したわけだ。もっともその”見たい”という願望を実行に移す人間がどれほどいるかと言えば口を閉ざさざるを得ない。いい言い方をすればオレは実行力が有るわけだ。なんて自分に言い訳するオレはイケてねえ。もともとかっこよくあろうとすること自体間違ってる気がする。うだうだ考えたところで既にオレの指は勝手にインターホンを押していた。後戻りなど出来ないしするつもりもない。それにしたって一応現在友達のカテゴリにぐらい入れてもらえているのだから家を訪ねたっておかしくないだろう。そう言って自分に言い聞かせていたところでドアが開いた。


 オレを見て少し驚いたような表情を見せた奴は休日らしく私服で、長くなった前髪を女物の髪を止めるやつ(なんていうんだったか、いのが見せてきたことがあったが覚えてない)で止めている。綺麗な額だと思いながら、とりあえず挨拶。といっても「よー」程度の軽いもので、まあ友人関係にはありがちの挨拶。上がるように示されて奴の後ろについていく。廊下や開けっ放しの部屋を覗くと妙に綺麗で思わず感想が洩れた。確かに汚いのは好きではなさそうだがここまでくれば軽い潔癖症じゃないだろうか。別に、構わないけれど。リビングに通されて、ソファーを指さされたのでとりあえず座る。オレの家のソファーよりふかふかしているように感じる。

「シカマル」
「ん?何だ?」
「コーヒーと緑茶どっちがいい?」
「あ、悪いな。緑茶で」
「んー」

 客にはお茶を出してくれるのか。基本的に良い奴だ。オレは、たとえばキバが家に来ても出すとしたら水道水だ。わざわざそんな、めんどくせー。上品なお茶の香りが部屋に満ちる。コイツ絡みだと全部が格調高く感じるのはなぜだろうか。ん、と湯飲みがテーブルに置かれた。細すぎるわけでもなく、だが普通の男にしてみれば些か健康的とは言えない長い指に目を奪われた。オレなんか比較対象にならないくらいに綺麗な気がする。やっぱりコイツが女に騒がれるのも分かる。なんにしたって顔はいいしエリートだしそこそこ身長高えしクールだし。女が食いつくポイントをことごとくついている。全く。全く、わざわざオレもこんな不利すぎる条件の相手に惚れなくてもいいだろうに。飛車角落ちどころじゃないと思う。負け将棋だ。

「お前、任務は?」

 沈黙するオレを不審に思ったのか、立ったまま少し首をかしげている。いちいち仕草が可愛いんじゃねえの、こいつ。

「急に午後から暇になってな」
「午前中はやっぱり忙しかったのか」
「やっぱり?」
「…こっちの話だ。で、何か用でもあんのか?」
「あー、いやー、別に、なあ…」
「…いいけどな、別に。暇つぶし?」
「あ?や、それとも違うな。てかそれだとオレ嫌な奴っぽい」
「そうか?…まあ、丁度オレも暇してたとこだ」

 何かするか、と尋ねながらオレの隣に腰かける。その時コイツから少し甘い匂いがした。甘いものが嫌いなコイツから甘い匂いがするなんて珍しい。同時にそれに混じって嗅ぎ慣れた匂いもする。

「……煙草?」
「あぁ…まあな」
「お前が吸ってんのか?」
「ああ」
「未成年が何やってんだよ、とか、まあオレも吸ったことはあるけどな。派手にむせた。何が美味いのかオレには分かんねえ」
「まあ、美味くはねえよな」
「じゃなんで吸ってんだよ」
「……なんでだろうな」

 少し伏せられた瞳がいやに寂しそうだった。意味もなく煙草なんて吸わないだろう。興味本位で、なんてそんなことで煙草を手に取る奴とも思えない。何か、理由でもあるのだろうか。煙草に依存してしまうまでの理由が。

「別に理由なんてねえよ」

 心でも読んだようにさっきとは一転した勝ち気な瞳がオレを見つめていた。少し驚いたオレの顔を見てふ、と息を漏らして笑う。

「どうせ理由、とか考えてたんだろ。そんな大層なもんじゃねえよ。…すぐにでも大人になりたかったんだよ。大人に」
「…なんで?」
「大人になったら…多少自由になれると思ってたから?」
「疑問系かよ」

 くつくつと笑うコイツは随分と年相応な顔をしていた。やはりオレはコイツにとって特別でありたい。対人関係に関して器用だという自負はない。切り替えは早いほうだとは思うがそれは相手にも要求される。たとえば友人だと思ってた奴から好きだと言われたら?オレだったら普通に驚くし、しかもそれが同性ときたらさらに驚く。残念ながらオレには男を好きになる趣味はないと断るに決まっている。コイツならどうするか、なんて一般的に考えたら反応は手に取るように分かる。それでも。実行力のある男、オレ。当たって砕けてみようじゃねえの。

「なあ、サスケ。オレ、――」




02:サスケ
(唇が縁取る秘密の言葉)(シンプルな言葉、けれど、)


100804改編

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