四月一日、だからなんだと言うんだ。エイプリルフール日本語で言うところの四月馬鹿。嘘をついてもいい日なんて誰が言い出したか知らないが、そいつは余程の暇人だったらしい。馬鹿の中の馬鹿だ。キングオブ馬鹿だ。下らなさすぎて欠伸が出る。ついでに涙も、だ。
「うお、何泣いてんだ」
「欠伸したら涙出ただけだ」
「ビビるだろが。エイプリルフールの何かの導入かと思ったじゃねーか」
「くっだんねえのと一緒にしてんじゃねえよこのウスラトンカチが」
苦笑するシカマルをよそに不機嫌を全面に押し出し頬杖をつく。エイプリルフールだからなんだと言うんだ。本日何度目になるか分からないセリフを繰り返した。嘘なんて、胸糞悪い。第一こういう場合許される嘘と言うのは誰もが喜ぶ嘘だ。嘘だと分かってもなお笑える嘘だ。そんな嘘が、今日どの程度吐かれているか考えると頭が痛い。大概は取るに足らない嘘か、悪ノリが過ぎた悪質な嘘に分類されるだろう。
本当に、下らない。
「何でそんなに機嫌悪ィの」
「うるさい」
「……あーもー、サスケのそういう訳分かんねーとこ正直駄目だ」
「うるさい」
「……やー、エイプリルフールの嘘、だぜ?」
違和感を感じ取ったところで結局オレの思考までは読み取れてはいないんだろう。オレは、嘘が、嫌いだ。だからと言って嘘をつかないわけじゃない。生きやすく立ち回るには多少の嘘は必要だ。でも今の嘘は違う。第一に、言った言葉が全て嘘に出来ると思っているのか。一度口から出た言葉は制御不能の凶器となる。話者が意図していなくともそれはいとも簡単に傷を創る。言葉はもっと慎重に使われるべきなんだ。
「だったらなんだ。嘘だからどうなんだ」
「…気にするな?」
「じゃあ言うな。馬鹿じゃねえだろお前」
「ノリが悪ィ」
「そんなのオレに求めんな」
ふいと顔を逸らすてシカマルを視界から消す。今日のオレはすこぶる機嫌が悪い。勝手に不機嫌になるオレも悪いが地雷を踏むシカマルも悪い。
「今日は何言ったって許される日じゃない」
「……言われて嫌だったって?」
返事の変わりにシカマルを睨みつける。少しばかり緩んだ顔に腹が立つ。再び顔を逸らすと後ろから抱きすくめられてしまった。悪い気はしないから大人しく腕におさまっておく。どくどくと伝わってくる鼓動は速く、耳にかかる息がくすぐったい。
「それってつまりはオレへの愛だよなあ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
「素直じゃねー…」
ちゅ、とわざとらしく音を立てて耳にキスされる。背筋がぞわりとして肩が揺れた。それに含むように笑うシカマルがムカつく。胸の前にある手を取って唇を押し付ける。儀式のようにキスをしてついでに指先にもしておいた。
「シカマル」
「ん」
「……好きだ」
「…エイプリルフールだーとか言うオチじゃねーよな?」
「あくまで嘘をついてもいい日であって言ったこと全部が嘘になる日じゃねえだろばーか」
腕を解いてシカマルに向かい合う。少し照れたような顔が目に入り多少気は収まった。嘘をついてもいい日だなんて、なんでわざわざ誰かの許可の元嘘なんかつくか。躍らされてるみたいで癪なんだよ。上から目線で、ついてもいい、ってなんだ舐めてんのか。ふざけんな、と心の中で誰とも言えない誰かを罵る。シカマルに勢いよく抱き着くとシカマルはなんとも形容し難い声を上げて倒れ込んだ。ぎゅう、と何も言わずに抱き合っていると心臓の音が酷くうるさい。オレからそっと唇を重ねると頭を撫でられた。オレは子供か。でもなぜか嬉しかったのでもう一度キスをした。
「嘘なんかついてる暇ねえよ」
「それよかよっぽど好きだって言ってた方がマシか」
「違う、愛してる、だろ」
「そーだな、愛してるぜ」
「オレも愛して、んっ」
最後まで言うことは叶わなかったがお互い分かっているから必要はない。ああ春だなあ、と息もつけないキスの中、思った。
春の恋人たちはいつだって馬鹿
(手に負えないという点においては嘘よりよっぽど悪質)(でも本人たちは幸せ)
(今日も平和です)
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四月馬鹿ネタのフリー小説ってことで!
配布期間は04/01〜04/14まで
終了しました!
こんなシカサスが幸せです
シカサスは年中春真っ盛りですから。
100804改編