満月の夜、軽く荷物をまとめて自宅を後にした。最早戻るつもりはなく、何の未練もないと言えば嘘になるが決意は固い。里の外に出る為の門に行くまでに受けたどんな言葉ですら心に届くことはなかった。いっそ哀れんで憎んでくれた方がよっぽど楽だというのに、そんな風に都合よくいくものでもない。サスケは人気のない通りを歩いていた。人工的な明るさはなく、月明かりだけが行く道を照らす。まるで自分の行く末のようだ、なんて感傷に浸る自分に笑った。


 月明かりの中、ぼんやりと人影が覗く。当然とでもいうようにサスケはその人影の前で立ち止まった。

「深夜徘徊か?」
「ああ、そんなところだ」

 軽口を叩いてサスケはシカマルの正面に向かい会う。シカマルは気怠そうに腕を組んでいる。丁度月に雲がかかり、その表情を知る術はない。二人の間に言葉はなく、周りも音を立てるものは皆無で世界は沈黙していた。

「…いると思ってたぜ」
「来ると思ってたっつの。分かりやすいんだよ、サスケ」

 咎めるような口調にサスケは眉をひそめる。シカマルはそれに気付いたのか溜め息をついて首を振った。

「どうこう言おうってんじゃねーよ」
「そうかよ」

 シカマルの真意を掴みかね、サスケは首を傾げた。そんなにゆっくりしている訳にもいかない。サスケはいままでの雰囲気のまま、寧ろ二人でいる時の甘い雰囲気がお似合いの、甘い声を出した。

「オレを、止めるか?」

 ゆっくり首を傾げてシカマルを見上げるように視線を投げる。シカマルの表情は、見えない。

「止めねーよ。…止めて欲しいんなら話は別だけどな」

 シカマルはさもどうでもよさげに呟く。僅かに雲が晴れ、周りが明るくなる。いつもとは違い、髪をゆるく下でまとめている姿はまるで知らない男の様だった。サスケはその言葉に、シカマルに気付かれないよう薄く笑った。

「そういうところ、好きだぜ」

 無表情に、無感情に、静寂を破る。シカマルが僅かに驚いた表情を見せた。その様子にサスケは微笑みを漏らす。こんな時に、こんなに穏やかな気分になるとは思わなかった。きっと、これが最後だろうけれど。
 
 月明かりしかない場所ではお互いの顔がかろうじて見える程度で、サスケはシカマルが急に手を伸ばしたのに気付くのが遅れてしまう。あ、と思った時にはシカマルの腕の中に抱き込まれていた。どくどくと脈打つ心臓の音がサスケにまで伝わり、サスケは目を閉じた。シカマルの肩に顔を押し付け背中に腕を回す。どうせ最後なのだから、とどこかヤケになっている自分がいることに気付いた。風呂上がりなのかまだ水分を含んだ髪からシャンプーの匂いがする。シカマルがサスケの頭を撫でる。サスケは顔を上げてシカマルを見つめた。

「何やってんだろな、オレら」

 シカマルは苦笑しながら呟く。全くだ、とサスケも笑い、その後の言葉を言わせないとでもいうように唇を押し付ける。薄く唇を開いて舌まで触れ合って、名残惜し気に唇を離した。銀色に伝う唾液がぷつりと切れる。

「こんなところ見られたらシカマル、とばっちり食うな」
「何でだよ。オレはただ寝つけねーから散歩してたらたまたま恋人に出くわしてちょっとスキンシップしてただけだろ。…な?」
「……そうだったな」

 シカマルはもう一度サスケに口付けを落とし、抱き締めていた体を離した。もうそこに温もりはない。

「じゃあな、サスケ」
「ああ」
「また明日」
「…ああ、またな」

 サスケはシカマルに向けて口端を上げ、そして背を向け歩き出す。後ろでシカマルも背を向け歩き出したのを感じる。未練はないと言えば嘘になるが、決意は固い。不覚にも涙を溢しそうになった。




別れの言葉はいらない
(代わりに甘いキスをして)(涙なんて、)



*****
里抜け前捏造
シカマルは分かってるけど敢えて止めない
好きだからこそ
サスケもサスケでそんなシカマルが好きでしょうがないのに
若さ故の不器用って話でした
 
100730改編



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