夏の強い日差しが窓をすり抜けて室内へと降り注ぐ。
 シカマルとサスケは十数分前に少し遅い朝食を終え、二人並んでキッチンに立ち、食器をサスケが洗い、シカマルがその食器を受け取り布巾で水分を拭うという共同作業をしていた。サスケが最後のコップをシカマルに渡し終わり、シカマルがそれを拭いて食器洗いは完了した。
 サスケは頭の中で残った家事の優先順位を決めてしまおう、と手についた洗剤を洗い流しながら思考を巡らせていた。天気もいいことだから早いうちに洗濯物を干してしまおう。一人頷いて、濡れた手を乾いたタオルで拭き、洗濯機を回そうとキッチンを出た。けれど、唐突に掴まれた腕のせいでそれも叶わず、気づけばサスケはソファーに腰かけていた。もちろんサスケの腕を引いたのは同居人のシカマルに他ならない。シカマルは一言も発しないままソファーにごろんと横になり、髪を結わえていた紐を解いてサスケの膝の上に頭を落ち着けた。

「食ってすぐ寝たら牛になんぞ。……豚だっけか」
「どっちにしろ変わんねーだろ。いいじゃねーかたまの休日くらい、飯食ってすぐ横になったってよ」
「横になるだけなら構わねえが、これじゃオレは身動きが取れねえ」

 サスケはポンポンとシカマルの頭を叩いた。シカマルは目を細めてサスケを見上げる。

「朝ゆっくり起きて、のんびり飯食って、そんでお前の膝枕でうとうとするってーのは最高の休日だと思うわけだが」

 穏やかな笑みを浮かべて言われてしまえば、サスケも強く止めるようには言えない。そもそも心の底から止めてほしいなどとは思っていない。悪くない。こんな風に時間を過ごせるのは滅多にないことだから、たまにはこうした休日の過ごし方をしたって罰は当たらないだろう。
 サスケは一応のポーズとして小さく溜息をついた。シカマルはそれも見透かしているのか、目を閉じて口元だけ笑みを形作っている。
 サスケの手がシカマルの頭に置かれる。先ほどは軽く叩いたが、今度は労るように優しく頭を撫でた。時折髪を梳くように動いて、また髪を整えるように頭を撫でる。心地よい時間だった。
 窓の外に目をやれば、朝起きて見た時と同じように晴れ渡った青空から太陽の日差しが降り注いでいる。もう少ししたら、洗濯機を回そう。雨が降りそうな様子もないから洗濯が終わる前に布団を干すものいいかもしれない。一番最近布団を干したのはいつになるんだったか、梅雨前に干したきりのような気がする。そういえば梅雨の時期は二人ともやたらと任務が入って二人の時間を持つことがほとんどなかったな、などと色々なことに思考を飛ばしている最中も、サスケの手はシカマルの頭を優しく撫でていた。

「サスケ」
「、ん?」

 すっかり寝入ったと思っていたシカマルから名前を呼ばれ、サスケは一拍遅れて返事をした。しかし、サスケの返事以降シカマルが口を開く様子はない。じっとシカマルの顔を見つめていると、シカマルが薄目を開いてサスケを見つめた。
 その視線で言わんとすることを理解して、サスケは口元を綻ばせて背中を丸めた。シカマルの手がサスケの頬や耳に触れ、そのあと髪の間に差し込まれる。鼻先が触れる距離まで近づいて動きを止めると、ぐいとシカマルの手に頭を引かれた。
 唇が触れる。
 別に久々の感触、というわけでもない。この唇を飽きるまで貪ったのは昨夜の記憶だ。起きた時、まだ唇に赤らみが残っていたのだから間違いない。それでも、一度触れると離れがたいものではあった。
 唇同士を触れ合わせるだけのキスをして、その感触を堪能する。サスケがシカマルの唇を食むと、シカマルの舌先がサスケの唇を舐めた。ふわりと食後に飲んだコーヒーが薫る。サスケはミルクを入れて、シカマルは少し砂糖を入れる。微かな味の違いを感じて、サスケは不思議と笑みを浮かべていた。

「随分楽しそうだな」

 吐息に混じってシカマルが揶揄うような声をかける。サスケは笑みを浮かべたまま、シカマルの額に自分の額を押しつけた。

「楽しいっつか、こういうのを幸せって言うんだろうなって」

 自然と洩れる笑みはそのためだ。何か言葉を交わすこともなく、ただ二人で時間を過ごして、戯れに触れ合うこの瞬間はサスケの胸にじんわりと温かなものをもたらした。
 途端にがばりとシカマルが身体を跳ね起こす。驚いたサスケがぱちくりとまばたきをすると、シカマルはサスケのへと身体を向けて正面からサスケを抱きしめた。

「……オレだって、そうだ」

 シカマルの腕が背に回る。抱きしめられて、耳元で名前を呼ばれて、身体も心も満たされる心地がした。

「シカマル」
「ん?」

 窓の外を見る。空は依然晴れたままで、その眩しさにサスケは目を細めた。

「洗濯機回してる間に布団干す。んで、洗濯終わったらそれ干して、しばらくしてから布団取り込んで、昼寝しよう。だから、手伝え」
「昼寝な。お安いご用だ」

 歯を見せて笑ったシカマルは、リップ音を立ててサスケの唇に口付けた。


ある日のはなし



120723

 
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