※少しグロテスクかもしれない
※現パロ









 帰宅する。マンションの一階の一室がシカマルの自宅である。その部屋の住人はシカマル以外にもう一人いるが、その男は一階の部屋には見当たらなかった。この部屋の地下には倉庫として使えるスペースがある。そこに住めなくもないけれど、打ちっぱなしのコンクリートで、床も同じようにコンクリート。使い勝手が良さそうだ、と思ってこのマンションに決めた。地下の倉庫に窓はない。換気扇は地下の下水道へ繋がっているのか、外へ匂いが漏れることもない。元々なんの目的であるのか分からないが、排水溝もある。まさに自分たちのためにあつらえられたかのようなスペースだった。
 シカマルは上着を脱いでリビングに置き、一度手放した大きな荷物を抱えて地下へと降りて行った。
 戸を開いて階段を下り、地下の床へと足を下ろす頃には強い臭いが鼻をついた。嗅ぎ慣れた血液の匂いだ。血液が流れて排水溝へと呑まれていく筋を見て、それに触れないように足を進める。適当なところに荷物を転がし、サスケの背中に回って、肩越しに手元を覗き込んだ。
 目に映るのは赤ばかり。鮮やかな赤があると思えば、ピンクに近いものもあり、黒の強いものもある。すべて人間の内側にある色ばかりだ。
 これが元を正せば人間だったと分かるのは、まだ太腿から下が原型を留めているからだ。けれど、それより上はただの肉片に成り果てていた。手術台を彷彿とさせる台の上に、赤黒い、肉の破片。長い髪の毛が生えた肉片が溜まった血液の上を漂っているのを見つける。太腿や足のサイズ、髪の長さから見て、この肉塊は女性のものらしい。
 サスケは殊に、女性の身体を解剖することを好んだ。
 それは解剖と言うには余りに荒々しかったかもしれない。頭部を割って脳漿をぶちまいて、骨を砕くように潰し、肉を刻む。いつも決まって頭からだった。サスケは脂肪には何らの興味を示さない。早いうちに乳房や尻は切り落として捨ててしまう。サスケの興味は人間の内側の赤い本性にあった。

「この女、誰なんだ?」

 シカマルに覗き込まれてもまったく気にする様子のないサスケの耳元に囁くように言葉を吹き込む。腰を抱いて肩に顎を乗せるが、サスケは肉塊にナイフを突き立てるのを止めようとはしなかった。

「知らねえ。その辺歩いてた時に目が合った女だ」
「何が気に入った?」
「気に入る要素はゼロだな。でもたまには面白味の無さそうな女でいいかと思った」

 目が合っただけでまさか殺されるなんて思いもしなかっただろう、サスケ曰く面白味のない女の頭部があった場所を見つめる。おそらく声をかけられ言葉巧みに誘われ、ここまでついてきたのだろう。猫を被ったサスケは酷くタチが悪い。人懐っこい好青年を演じるサスケに誘われれば、容姿も相まってその誘いを断れる人間などそういない。そんなサスケに誘われて、一瞬でも夢を見ることができたこの女はなんと幸運か。シカマルは笑って足元の肉片を蹴り飛ばした。
 グチャグチャと音を立てるサスケの手は真っ赤に染まっている。すでに体内の血液はほとんど流れ出てしまったのか、サスケが手を動かしても血液が溢れる様子はない。ぶちぶちという筋を千切る音が聞こえ、サスケが手にしていたナイフを手放した。カランと一度音を立てたナイフは、次はぴちゃんという音を立てて赤い水たまりの中へ落ちて行った。赤いサスケの手が赤黒い肉塊の中に差し込まれる。ずるりと引き出された塊をサスケはさも興味深げにしげしげと見つめた。
 サスケが女を解体する理由はひとえにこの臓器の存在である。
 両手に収まるその臓器を観察するサスケの横顔はどこか羨ましげだった。けれどすぐに、サスケは大切そうに手のひらで包んでいた臓器からぱっと手を放した。肉片の上にびたんと醜い音を立てて落ちた臓器に、サスケは先に落としたナイフとは別のナイフを突き立てた。引き裂いて引き裂いて引き裂いて、あっという間に原型は失われる。

「ぐちゃぐちゃにしちまってよかったのか」
「こんな女でも、オレがどうあがいても持ち得ない臓器を持ち合わせてるわけだ。まあ、大したものじゃなかったが」
「お気に召さなかったってわけか」
「そういうことだ」
「……なんでそこまで子宮にこだわるんだ」
「女にはなりたくないが、子宮は欲しいからだ」

 サスケは子宮を切り裂く手を止め、ナイフを置いた。腕の中のサスケがくるりと身体の向きを変える。少しだけ視線の低いサスケはシカマルをわずかに上目遣いに見やった。

「この身体から生まれてくるのは、可愛らしい化け物に違いないからな」
「種にもよるだろうよ」
「シカマル以外に種付けを許すとでも? お前とオレの血を引くんだ、見た目の美しさは保障できるだろ。それに反して歪に捻じ曲がった精神で生まれてくるぜ」

 うっとりとした表情を浮かべたサスケは目を閉じて深く息をしたあと、血塗れの手を気にする風もなくシカマルの頬を両手で包んで唇を寄せた。噎せ返るような深い血液の臭いが鼻をつく。シカマルはそれを思い切り吸い込んだ。触れ合う唇からは血液の臭いも味もしない。絡まる舌の甘美さに酔い痴れてシカマルはサスケの身体を掻き抱いた。
 子宮が欲しいと目についた女を連れ込んで解体し、子宮を取り出す。しかし取り出した子宮が切り裂かれなかったことはたった一度しかなかった。先月の頭に殺した女の子宮は、サスケの何かに触れたのか、取り出されたあと綺麗に洗われていた。そのあと、その子宮がどうなったのか分からない。その日の夜に、サスケだけが煮込んだ肉のシチューを口にしていたが、それが何の肉なのか分からなかった。特に知りたいとも思わなかったから、シカマルが追求することはなかった。
 どうでもいい女の子宮のことより、サスケの舌の方が余程魅力的だった。厚みのある舌をやんわりと噛むと、舌がぴくりと動くのが分かる。唾液が分泌されて、それを飲み下すように啜った。甘美な味が脳髄を揺さぶる心地がする。唇が離れ、その間を伝う銀糸すら惜しいと舌で追って、サスケの唇を舐めた。
 抱き寄せればサスケの身体が反応していることは容易に分かる。そもそもシカマルがこの部屋に入ってきたときにはすでに兆しを見せていたサスケのことだ、今のキスでさらに興奮を煽られたに違いない。サスケの背を手のひらで撫でる。背骨を伝って腰へ、そこから下へ、柔らかな双丘を過ぎ、その先へ指を伸ばしたところでサスケが身じろいだ。

「あれは」

 サスケの興味はシカマルが持ち込んだ荷物に移っていた。シカマルは億劫そうに振り返る。大きなボストンバッグが不自然な動きをしている。それから不穏な呻き声。はあ、とシカマルは溜息をついた。バッグの口を開く。大きな瞳に涙をいっぱいに溜めた少年が声を出せないように口を塞がれ、身動きを封じるように縛られていた。サスケはそれを見下ろして、フンと鼻を鳴らした。

「相変わらず子供か」
「悪いか? 子供でも、黒髪で黒目の大きいガキに限る」

 シカマルはにやりと笑った。
 子供ならどれでもいいわけではない。黒髪黒目、そしてできれば生意気そうな、少年。サスケを想起させる姿の少年であることが重要だ。サスケを殺すのは惜しいから、それに似た少年で代用する。成長してしまうとなかなかサスケと重ねることが難しい。今のサスケはあまりにも完成しすぎている。それに、成長した男を攫うのは手間がかかる。だから、幼い子供である必要があった。
 興味無さげに頷いたサスケは少年をバッグから引きずり出す。そして怯える少年ににっこりと笑って見せた。その笑顔に希望を得たのか、少年の顔からわずかに恐怖が消える。シカマルも薄く笑みを浮かべて少年の身体を縛る紐を解いた。

「じゃあ、次はこいつな」

 シカマルは少年の頭を掴んだ。尋常ではない強さに少年の顔が再び強張る。縋るようにサスケに助けを求めた少年の手をサスケは優しく撫でた。少年の手に、赤い血がべとりと付着する。自身の辿る結末を悟った少年が声を上げる前に、シカマルは少年を引き倒し、首を絞め上げる。
 サスケはひどく楽しそうに、少年の首を絞めるシカマルの横顔を見つめていた。



生と死の間に



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