盗まれた青春に告ぐ:サンプル







 夏の厳しい日差しが、開け放たれた窓から直接差し込んでくる。現在8月。夏休みと銘打ちながらも、補習だなんだと言って学生たちは登校するはめになっていた。只今の気温は33℃。冷房をつける許可が出るのは33℃を超えてからだった。
 受験を控えた高校三年の夏、午前の補習が終わり、昼休みが訪れていた。暑い教室の中、昼食を取り終えたサスケは、同じく食事を終え午後の補習のノートに視線を落とすシカマルの横顔を見つめていた。頬から顎にかけて一筋の汗が流れてゆく。その滴はぽたり、とシカマルの手の甲へ落ちて行った。シカマルが汗を拭う。チカ、とシカマルのメガネに日差しが反射してサスケは眩しそうに目を細めた。
「予習、終わってんのか?」
 相変わらず視線をノートに落としたままのシカマルが口を開いた。午後の補習の科目は、数学と英語のふたつ。昨日帰宅してからすぐに終わらせてしまっていた。机から二冊のノートを取り出して、今日の分のページを開く。
「ナルトやキバじゃねえし、終わってるに決まってんだろ」
「だな。英作で気になるとこあってよ。ちょっと見せてくれ」
 トントンと自分のノートを指で叩いたシカマルはやっと視線をサスケに向けた。サスケが窓側にいるため太陽の方へ視線をやることになって眩しいのか、シカマルは日差しを遮るように手をかざした。サスケは黙ってノートをシカマルの方へ差し出す。それを受け取ったシカマルは「サンキュ」と言って小さく笑った。



 高校最後の年に、去年に引き続いて同じクラスになった。嬉しいやら悲しいやら。二年までは適当に授業を受けていたシカマルは、三年になって突然勉強するようになった。詳しく聞いたことはなかったが、少し難しい大学を目指しているらしい。今まで掛けていなかったメガネは、夏頃にはすでに見慣れたものになってしまった。
 真面目に勉強しているシカマルの真剣な横顔が好きだ。暑さから逃れるために図書室で勉強をしているとき、不意に交わった視線に胸を高鳴らせたのは記憶に新しい。シカマルの勉強に付き合ったのはその一度だけだった。
 シカマルとは仲がいい方だ、とサスケは自負していた。仲良くなったのは高校に入学して、幼馴染のナルトに巻き込まれる形でキバやシカマルと行動することが多かったからだろう。もし、ナルトがいなければサスケはシカマルと話を交わすことさえなかったかもしれない。
 それは一体どのような高校生活だっただろうか。寂しいかもしれないが、今のように、昇華できない想いに駆られることはなかったに違いない。どちらの方がよかったのか、サスケには判断できなかった。
「じゃ、また明日な、サスケ」
 シカマルの声ではじかれたように顔を上げた。手を上げたシカマルはサスケの返事を待たず廊下へと足を進めて行った。
 部活に入っていなかったシカマルとは、以前までは毎日のように家路を共にしていた。いつから、どうして、シカマルと帰ることをしなくなったのだっけ。そんなことを考えるまでもなく、理由は目の前にあった。
 廊下の影から、女子生徒の姿が現れる。黒髪ショートの落ち着いた雰囲気を纏った少女だった。シカマルが歩いてくるのを見つけた彼女は薄く微笑んだ。彼女の口が動く。おそらくシカマルに何かを話しかけたのだろう。シカマルと彼女の会話はサスケの耳には届かなかった。二人が並んで歩いて行く一瞬、彼女がちらりとサスケに目をやった。身体を硬くしたサスケだったが、彼女は柔らかく微笑むだけで、サスケの視界から消えて行った。
 彼女のことを疎ましく思っている自分がいることをサスケは自覚していた。羨んだとしても、どうかなることではないということも、分かっていた。彼女さえいなければ、と心の中で呟く度に、彼女がいなければ伝えられるのか、ともう一人の自分が鋭く反論してきた。言えるはずがない。シカマルのことが、好きだと。サスケは決して伝えることができない想いを持て余しながら、二人が去って行った廊下を睨みつけていた。


 



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