※学パロ
※サスケが女の子



 数日にわたって練習を繰り返したチョコケーキは当日の夜中に今までで一番の出来に仕上がった。甘くなりすぎないようにビターチョコレートを使ったから、きっと食べやすくできているはずで。ラッピングの時に妙に緊張してしまって少しだけリボンが不格好になってしまったけれど、手作りなのがうかがえるからこちらの方がいいのではないかと思うくらいだった。
 柄ではないと思う。普段からサスケは男友達に混じっていたから、バレンタインに手作りのチョコレートを渡すなんて女の子らしいことをしたら笑われてしまうかもしれない。けれど、こんなタイミングでないと、それこそ想いを伝えることすらできそうになかったから。
 そっと鞄に忍ばせたケーキの箱を気にして、いつ渡そうかとそわそわしながら一日を過ごした。会って一番に渡せば気が楽かもしれないけれど、その後どんな顔をしていればいいか分からないから渡せなかった。ナルトやキバが女子からいくつかもらったチョコにはしゃぐのを横目に、その様子を一歩後ろから見ているシカマルを気にして数時間。あっという間に学校は終わってしまった。
 帰る前に押し付けてしまおう。そう決心したサスケがシカマルに声をかけようとした時、廊下の方からシカマルを呼ぶ声が聞こえた。威勢のいい女子の声。にっこりと笑みを浮かべた女子二人の後ろに、気恥ずかしそうにシカマルを見つめる女子がいた。これから起こることを察してサスケは口を噤んだ。呼ばれたシカマルは顔色一つ変えずにその呼び掛けに応じて廊下の方へ歩いて行ってしまう。先を越されてしまった。悪いとは思いながらも鞄を持ってシカマルの後を追う。先ほどの女子たちとシカマルを盗み見ると、案の定例の女子はチョコレートらしき箱をシカマルに差し出していた。
 今更、渡せるはずがない。今まで友達みたいに接してきたのに、突然チョコを貰ったって、きっとシカマルを困らせるだけだ。それに、断られたら今の関係だって壊れてしまうのに。途端に怖くなったサスケは走り出した。階段を駆け下りて、下駄箱でキバにぶつかりそうになる。

「え、もう帰んの?」
「っ……帰る!」
「ちょ、オレらももう帰るしって、ちょ、待てってば!」

 いつもなら一緒に帰るけれど今日はそんな気分じゃない。キバの制止の声も無視して走った。走りながら、どうせ無駄になるだけだからケーキをキバに渡してしまえばよかったと思うけれど、戻るわけにもいかない。そのまま、何も考えないように努めて、サスケは家まで帰った。


 まだ誰も帰ってきていない家の鍵を開けて、サスケはとぼとぼと自分の部屋に入っていった。少し乱暴に鞄を床に落として、ベッドに倒れ込んだ。
 こんなチャンス、もう二度とないかもしれないのに。逃げて、しまった。
 目を閉じる。チョコを渡されているシカマルが目蓋の裏に浮かんだ。シカマルのことだから、別にサスケがあげなくとも誰か違う人から貰うだろうとは思っていた。ぼんやりとしているように見えて、周りをよく見ているからここぞという時に気がきくし、優しい。名前も知らないあの女の子が好きになる気持ちは分かる。あの子より、自分の方がシカマルと近いだろう優越感に浸りつつも、異性としてシカマルに接することのできない自分は疎ましかった。
 それから、どれくらいの時間そうしていたか分からない。気付くと窓からは夕日が差し込んでいた。携帯に手を伸ばす。5時を過ぎていた。もう、きっとあいつらも学校から帰ってしまっただろう。鞄に入った可哀相なケーキのことを思い浮かべると溜息がこぼれていった。
 携帯を握り締めて、アドレス帳からシカマルのアドレスを呼び出す。やろうと思えば、電話だってメールだってできる。でも、操作する指は動かない。起き上がって、そのアドレスを見つめ、再度溜息をこぼした。
 その途端に、携帯が震えだしてサスケはびくりと身体を揺らした。そして携帯に表示された『奈良シカマル』という文字にひどく驚いて思わず携帯を床に落としてしまった。携帯はフローリングを滑って、壁にぶつかってなお振動を続けている。にわかに騒がしくなった鼓動を落ち着けようにもなかなか現状を理解できない。動けないまま震える携帯を凝視していると、しん、と携帯は振動を止めてしまった。それに落胆する自分がいることに気付いたサスケは、急いで携帯を手にした。不在着信が、一件。どうして出なかったのだろう。自らの情けなさに眉を下げたサスケは、携帯を握って目蓋をぎゅっと閉じた。
 手にしていた携帯が再び震え出し、サスケは目を見開いた。浅くなる呼吸を殺して、震える指で通話ボタンを押した。

「も、もしもし」
『オレだけど』
「うん」
『今、家?』
「そ、だけど……なに」
『今お前ん家の前まで来てんだけどさ』

 驚いて道路側の窓を開けて外に顔を出すと、携帯を耳にあてたシカマルがもう一方の手を上げていた。目を丸くしてそのまま何も言えずにいると、視線の先でシカマルが笑った。

『チョコ貰いに来たんだけど』

 笑ったシカマルの唇が動くのと同時に、耳元の携帯からシカマルの声が聞こえる。意味を察して心臓が跳ねるのが分かった。

「……なんで」
『くれねェの?』
「他の女子から、貰ってただろ」
『オレはお前のが欲しい』

 その言葉に顔が赤くなるのを感じた。ぷつりと通話を切って、思い切り窓を閉める。感情が昂って泣きそうになるけれど、それを抑えて鞄から箱を取り出した。急いで降りたことを悟られないように足音を殺しながら走って、玄関の前に立つ。深呼吸をして、ドアを開けた。
 携帯をしまっていたシカマルはドアの音で顔を上げた。サスケの顔を見て、ふっと頬を緩める。サスケはわざと怒ったような顔をして、箱をシカマルに投げつけた。

「仕方ねえからくれてやる!」

 上手いことキャッチしたシカマルは綺麗にラッピングされた箱を見て目を細めた。それから、はにかむようにして笑った。

「おう、サンキュ」

 その表情に心臓が高鳴る。シカマルの顔が直視できなくて、視線を反らした。

「なんだよ嬉しそうにすんなバカ」
「そりゃ本命から本命チョコ貰えば嬉しいだろ」
「バッ……誰が本命、……本命?」

 シカマルが一歩踏み出した。距離を詰めてきたのが分かって、サスケは一歩引こうとしたけれど、腕を掴まれてしまう。

「お返しっつーか、返事っつーか……今でいいか?」

 視線を彷徨わせながらシカマルを見上げると、真っ直ぐに目が合って胸が震える。何も返事をしないでいると、シカマルの顔が近づいてきて、キスされる、と思って反射的に目を閉じた。

「やっぱ、一ヶ月後にするか」

 いつまで経っても唇に感触はないし、そう思っている時にそんな声が聞こえてきて、弾かれるように目を開けた。穏やかに笑うシカマルの顔がそこにあって、また心臓が跳ねる。人に期待させておいて、と文句を言おうと口を開きかけた時、シカマルの瞳が大きくなって、唇に柔らかい感触があった。
 キスされたと気付いたのはシカマルが離れていってから数秒経った後で、その時には顔どころか首や耳まで真っ赤になっていた。シカマルはサスケの頭を手のひらで掻き回すように撫でて、楽しそうに笑った。



はっぴー?ばれんたいん!


120214

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