固まってしまった肩をほぐすように、サスケはぐいと伸びをした。パキパキと関節が音を立てる。伸びきって、腕の力を抜く。腕は重力に従ってぶらん、と落ちてしまった。
 上忍待機所に誰もいないのをいいことに、サスケはベンチに横になってはあ、と大きな溜息をついた。長く任務に出ていたおかげで溜まりに溜まった書類が一気にサスケの元へやってきて、その処理が一段落してやっと一旦休憩にこぎつけたサスケは、任務による疲労とはまた別のものを感じていた。
 眉間をぐりぐりと押さえていると、入口付近に人の気配を感じてサスケは身体を起こそうとした。けれど、その気配の主が誰であるか気付き、浮かした背中をまたベンチに落とした。目を閉じて寝た振りをしていると、疲れからくる溜息をつきながら、シカマルが待機所へ入ってきた。

「寝てんのか?」
「いいや寝てねえよ」

 シカマルに声をかけられてあっさりとサスケは寝た振りをやめ、身体を起こした。ふっと笑みをもらしたシカマルはサスケの隣に腰を下ろして、おもむろに煙草を取り出す。一本取り出し、口にくわえ、火をつける。その仕草がやけにらしく見えて、サスケは口元を綻ばせた。

「何がそんなに面白いんだよ」
「なんでも」

 首を振ってそう答えるが、サスケはまだ笑みを浮かべたままだった。それに眉を上げたシカマルだったが、気にすることなく息を吸い込んだ。そうして煙が吐き出される。ちら、とこちらに視線を寄越したシカマルに、サスケは首を傾げた。
 シカマルの指がすいとサスケの耳に触れた。心臓が高鳴る。
 こうして二人になるのはいつ以来だろうか。少なくとも長期任務の前であるから、それなりに久々のことだった。

「疲れてんじゃねーか?」
「それなりにはな。書類の量が、もう、な」
「何かやらかして始末書でもあるのか?」
「そうじゃねえけど」

 当たり障りのない会話をしながらも、シカマルの指は頬に触れたり髪に触れたりと忙しない。指が動く度にサスケは目を細めて、変な気分にならないように気をそらそうと必死だった。
 しかしそれも束の間のことで。久々に会う恋人を前に、大人しくしていられるほど老成してはいない。顎を滑っていた指を掴んで、そのまま手を握る。絡んだ指に満足してシカマルを窺うと、満足そうに口角を上げていた。

「やっぱ、いいな」
「何が?」
「こうやって、すぐにサスケに触れんのが」
「ん?」
「いっつもここにいりゃいいのによ」

 眉を下げてシカマルが笑った。
 いつだって触れていたいのはサスケも同じだ。けれど、二人は仮にも忍者であって、加えてそれなりに重要な位置にいるのであって、そんな我が儘が許されるはずもない。分かってはいるが、望んでしまうのは、仕方のないことだった。

「……でも、どんな任務に行っても、お前のとこに帰るぜ」
「……おう」
「オレの帰る場所はシカマルの隣だ……隣じゃなくて、腕の中だとなおいいけどな」

 に、と笑って言うと、シカマルは少し目を見開いてすぐに表情を崩した。腕を引かれたかと思うと、シカマルに抱き込まれる。煙草の匂いとシカマルの匂いが混ざった、この匂いを嗅ぐ度に、サスケは帰ってきた、と実感するのだった。
 シカマルがまだ半分以上残っている煙草の火を消したのが見えて、どうしたのかと顔を上げると、唇がぶつかった。優しく触れるだけの唇はすぐに離れてしまい、物足りなくてそれを追いかける。押し付けるようにすると唇を柔らかく食まれて、自然と唇が開く。そこから熱い舌が触れて、身体がじんと熱くなるのが分かった。
 貪るように唇を交えて、ぼうっとする頭のまま顔を離すと舌と舌に銀糸が伝った。唾液に濡れた舌を舐めると、ぎらぎらとしたシカマルの目に捉えられる。今自分は熱っぽい瞳をしているのだろうな、と他人事のように思った。

「まだ、足りねーだろ?」
「……そうだな」

 挑戦的な言葉をかけられて、負けじと口端を上げて答えた。
 今は偶然誰もいないだけで、待機所なんて誰が来るかもしれないというのに、一体何をしているんだ。
 そう頭で考える自分がいることは確かだった。しかし、もちろんこの状況に興奮している自分がいることも、確かだ。サスケは笑ってもう一度シカマルに口付けた。
 シカマルの首に腕を回して、後頭部に手を添えて、食べてしまおうかという勢いで噛みつく。体重を乗せてシカマルに圧し掛かると、シカマルの腕が腰に回った。
 どうか今だけは誰も来ないでくれ、と願うが、それが叶うかどうか、現実的には難しいものがあった。現にまだ遠いが、人の気配がこちらに近づいている。
 ここでこうしてキスを交わして、熱を燻らせることがお互いのためにならないことは理解していたが一度火のついた行為を止めることはなかなかできそうになかった。
 回していた腕を解いて、今度はシカマルの両頬を手で包みこんだ。触れ合う舌と舌が脳を痺れさせるほど気持ち良くて、今の状況を忘れてしまう。気配は近い。けれど止めることもできない。


 あっ、という声がして、直後に遠ざかっていく足音が聞こえた。二人してそちらの方に顔を向けると、どこの誰だか知らないが、不運な忍の後ろ姿だけが見えた。案の定、誰かがやってきて、見られてしまった。公にできるような関係ではないにしろ、身近な人間であったらシカマルとサスケの関係なんて知っている。気の知れた同期の連中ならげんなりとしつつこの場をあとにするか、またやってると言って茶化しながら入ってくるか、だろう。きっと何も知らないやつだったんだろうな、そう思ってサスケは不運な人物に少しばかり同情した。

「サスケ」
「うん?」
「続きは帰ってからにすっか」

 見知らぬ相手に水を差されて理性が戻ったのか、シカマルが唇を拭いながらそう言った。そもそも最後までする時間もないしそんなことを許す状況でもなかったから、サスケとしてもそれに頷いた。
 シカマルが立ち上がって、伸びをする。裾から腰がちらりと見えて、思わずそれをつついた。

「ばっかやめろって」
「つい」

 笑ったシカマルはサスケの頭をぽん、と撫でて、歩き出した。背を向けたまま手を振ったシカマルを見送って、サスケも立ち上がった。
 どこの誰に見られてしまったのか知らないが、面倒なことにならなければいい。面倒なことになったらなったで、シカマルがきっとどうにかするだろう。他人任せな思考をしながら、サスケは仕事へ戻るべく一歩を踏み出した。




休憩と充電


皐月さんリクエスト
ご本人さまのみお持ち帰り可です
リクエストありがとうございました!


110925


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -