「誕生日だからな」

 そう言って、シカマルの身体を跨いだのはもちろんその恋人であるサスケだった。
 そもそも、本日はシカマルの誕生日でこそあったが、お互い朝早くから任務の予定が入っていた。暗黙の了解というのか、二人揃ってベッドに入ってそのまま健全な触れ合いをしたのちにゆっくりと眠りにつくものだとシカマルは思っていた。サスケもそのような素振りを見せていた。少なくとも、シカマルの目にはそう映っていた。

「サスケ? その、なんだ……」
「ン?」

 シカマルとしてもサスケの行動が嫌なわけではない。むしろ喜ばしいことではあるのだけれど、今までのことを思い返してみれば一度や二度で済むはずがないことは分かり切っていた。任務に響くのは流石にまずい。シカマルとして困るのはただの睡眠不足だが、サスケに至っては身体にまで負担をかけることになるのだから、今はとにかく寝て帰ってきてから、とサスケに言い聞かせようと口を開いた。
 けれど、それも覆いかぶさってきたサスケの唇によって塞がれてしまった。
 柔らかい唇が触れる感覚にぐらりと心が揺れる。本能のままにサスケを抱くことができたらどれだけ幸せだろうか。そうは言っても任務はなくならない。
 サスケの指がシーツに散った髪を掬い取った。長い髪が引き寄せられて、艶やかな唇に触れる。触覚などないというのにくすぐったいような心地がしてシカマルは身を捩った。

「……任務あるから別にそこまでしようってんじゃねえよ」

 髪に口付けたサスケは眉を下げて残念そうに笑った。そう言いながらも腰は行為を連想させるように動いていて、シカマルはごくりと喉を鳴らした。この誘いに乗るべきではない。何度自分に言い聞かせても、サスケへと伸ばしてしまう手を止めることはできなかった。
 サスケへ伸ばされた手は、肌に触れる前にサスケの指に絡め取られてしまった。そのままシーツに縫い付けられ、上を見れば目を細めて艶めかしい笑みを浮かべるサスケと目が合い、どうしたところでこの状況を打破することは無理だろうと結論づけた。
 いっそ行為に溺れてしまえばいいだろうか。誘ってきたのはサスケの方であるし、それに最初のサスケのセリフを思い出してみれば、今日はシカマルの誕生日だった。

「じゃあ、どこまでならするんだ?」
「……シカマルが望むところまで」

 肩を揺らしたサスケは背中を丸めて唇を寄せた。絡んだ指が一切の隙間をなくそうと握り締められる。隙間なく密着する手のひらから伝わる温もりが愛おしい。それだけで胸が満たされる。
 唇がわずかに離れると、ほう、と溜息がこぼれた。
 幸せだ。こうやって手を伸ばせば触れることのできる距離にサスケがいることは、何よりもシカマルにとって幸せだった。そして、触れてしまえば、サスケからまたこちらに触れてくる。他に何か必要なものがあるだろうか。たったひとつ、この関係があるだけで満たされている。
 誕生日だから優しく触れているわけではないのに、ひとつひとつの動作に気遣いを感じるようでシカマルは目を閉じながら笑いをもらした。

「なあ、シカマル」

 顔中にキスを落とされながら燻る熱と訪れた眠気の境を彷徨っていると、吐息まじりに名前を呼ばれた。目蓋を上げてみると、穏やかに微笑むサスケがまたそっと唇に触れてきた。
 先ほどから柔らかく押し付けられるだけのキスにサスケの身体を全力で抱き締めてしまいたい衝動と、その唇の中の熱い粘膜を暴きたいという欲望に苛まれていた。
 サスケの身体をぎゅっと抱き締めて、そのまま眠りに落ちてしまいたい。
 同時に、もっと触れたいと、その先を見てしまう。
 先の呼び掛けは、どうしたいか問うものなのだろうけれど、シカマルにはまだ決断できなかった。

「オレは、シカマルに触れるだけで満足だ……キスもセックスもあればいいけど、なくてもいい。シカマルがここにいると思うだけで、こんなに満たされる」

 笑ったサスケはごろん、とシカマルの横に転がった。
 サスケの言葉が頭の中に響く。サスケも同じことを考えていた。それだけで歓喜に胸が震えた。

「時々どうしていいか分からないくらいシカマルが好きだと思ったりするんだ。……誕生日だからか、お前が生まれてきたことが嬉しくてこうやって隣にいることが幸せで、気持ちが昂ってんのか……ちゃんと寝れる気がしねえ」
「……お前はオレを殺す気かよ」

 サスケの熱烈な愛の言葉に顔が熱くてたまらない。隣のサスケを抱き寄せて、顔が見えないように思い切り抱き締めた。

「サスケが愛おしくてたまんねーよ。何回好きだの愛してるだの言ったって、キスしたって、セックスしたって、百分の一も伝わってねーと思うくらいな。……今日はこのまま寝ようぜ」
「ドキドキしすぎて眠れなくても?」
「任務終わって、休みがあるまでドキドキ持ち越しな」
「待ち切れねえなあ」

 ふふふ、と笑ったサスケの唇にそっと自分の唇を押し付けた。ベッドに入ってから一度も触れていない粘膜が恋しいと思ったけれど、サスケの身体を抱き締めることで気を紛らわせた。
 サスケを腕に抱いて目を閉じる。伝わる温もりが愛おしさを告げる。奥底で燻る熱は、今夜はそのまま燻っていてもらおう。腕の中の穏やかな温もりが優しい眠りを連れてくるようで、シカマルはそのまま眠りに落ちていった。



愛の二乗


110922



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