キッチンから水音と食器が触れ合う音が響く。サスケは手元に視線を落として黙々と食器洗いをこなしていた。オレと言えばその様子を黙々と眺めていた。長い睫毛がぱさぱさと伏せられ頬に影を落とすのを見ていると、その頬についと指を伸ばしたい衝動に駆られた。まあサスケとオレの間には数メートルの距離があって、どう手を伸ばしたとしても届くはずはないのだけれど。煙草でも吸いにベランダに出ようかと立ち上がったとき、サスケがそういえば、と呟いた。

「どうした?」
「ん、いや大したことじゃねえけど」
「うん?」
「生理がこなくてな」

 相変わらず視線は手元の食器に落としたままのサスケはなんでもないことのようにそう言い放った。その言葉が何を意味するか、オレはその場に立ちすくんだままサスケを見つめた。
 生理、が、こない。それは、つまり、つまり、そういう、ことか。責任取らねーと。いやむしろ願ってもないことだ。順番は色々間違ったかもしれないが、そんな小さいことを気にしている場合でもない。今のオレの立場で、サスケと二人、いやもう一人、の三人を養えるか。大丈夫だなんのために今まで五代目にこき使われてきたんだそれなりの収入はある。貯金だってそこそこしてる。生活力は、オレもサスケもまったく問題ないだろう。現に今だってほとんど同棲のような生活をしているんだ大して変わらない。サスケも大変だろうからそのサポートについてはオレだってするし、どうしても厳しいときは両親に手伝ってもらうなりなんなりできる。ああ、そうかまず両親に挨拶に行くべきか。しかしサスケの両親は、なんだ、墓前でお嬢さんをください、か。どうしたら許可されたことになるのかまったく分からない。もうこの際お嬢さんをお嫁にもらいましたと報告しようか。ならまずオレの両親にお伺いを立てて、云々。よし大丈夫だなんとかなる。
 一瞬で頭を巡って行った様々な考えの結果なんとかなりそうだった。

「大丈夫だ心配すんなサスケまずオレの両親に報告をしに行くぞ話はそれからだ」

 一息でそう言い切ってサスケの方へ顔を向けると、きょとんとした顔をこちらに向けていた。洗剤のついた手を水ですすいだサスケは濡れた手をタオルで拭いてキッチンからすたすたと歩いてきた。そこで思い当たったのか、サスケは口元を押さえて吹き出した。

「心配しなくても妊娠なんてしてねえよ」

 くすくすと笑っていたサスケは、我慢できなくなったのか声を上げて笑い出した。そんなサスケをぽかんとした顔で見つめているオレは、さぞ間抜けだったことだろう。一気に力が抜けて、ぼすんとソファーに腰を沈めた。
 焦った。たしかに、焦った。オレたち二人は付き合っているとは言え、まだ世間的には若い。理想としては、もう数年じっくりと愛を育んで、二人きりの生活を十分に堪能してから、計画的な子作りをしたい。もちろん、仮に今子供ができたとしても、胸を張ってサスケを幸せにすると約束できるくらいにはサスケを愛している自信はあるのだけれど。
 ふふ、とサスケがまだ笑いながら歩み寄ってきた。ソファーに座り込んだオレに抱きつくようにして身体を寄せたサスケは、顔の近くでまたくすくすと笑った。

「馬鹿、笑うな」
「ふふ、だって、シカマル……!」

 笑いのおさまらないサスケの頬を軽く抓ると身を捩って逃げようとする。頬を抓るのはやめて身体ごと抱き締めると、そっと背中に腕が回ってきた。腕の中にある身体は、相変わらず細い。腰だってオレが抱き締めてしまえば折れてしまいそうだ。この身体で、いつかは母親になるのだろうか。それも、オレの子供、の。

「でも、うれしい」
「あン? 何が」
「もし子供できたら今すぐに結婚してくれんだろ」

 胸板にぐりぐりと頭を押し付けたサスケは声をくぐもらせながらそう言った。きゅっと背中で服を引っ張られるのを感じる。ぎゅうぎゅうと抱きつかれて、腹のあたりに柔らかなものが押し付けられる。多分何も考えてないんだろうな。こんなときにも煩悩が過ぎる脳に少し呆れながら、サスケの頭をそっと撫でた。

「そりゃ、そうだろ」
「へへ……何もなくて安心したか?」
「まあ……いや」

 考えてみれば。もしサスケに子供ができたとして。それは願ってもないことだ、と思ったわけで。それがオレの勘違いだと分かって安心はした、けれど。ほんの少し、いや、実は、結構。

「残念だったかもなあ……」
「ん?」

 じっくり愛を育むのもいい。二人だけの生活を満喫するのもいい。
 でも、サスケとオレの間に子供ができたとしたら、それは何にも勝る幸せなのではないだろうか。子供は愛の結晶とはよく言ったものだ。とくに子供が好きだと思ってはいなかったけれど、自分の子供、というよりはサスケの子供と考えると、想像しただけなのにその存在が可愛くてしょうがない。サスケだけでも死ぬほど甘やかしている自信があるのに、その子供だなんて、猫可愛がりしてしまうに決まっている。そうしてきっと色んな奴に親馬鹿だとからかわれるのだろう。それすら、いいなあと思ってしまうくらいには。

「子供、欲しかったけどな、オレは」

 自然と穏やかな表情を浮かべ、サスケにそっと唇を寄せた。見る見るうちに顔を赤くするサスケの髪を梳くと、顔を赤くしたまま髪を梳く手に頬を寄せてきた。頬に手を当ててもう一度唇を寄せる。柔らかく触れ合った唇同士から甘い吐息が洩れて、とろりと思考を溶かして行く。

「……子作り、する?」

 目元を赤く染めたサスケが首を傾げてそう言った。馬鹿野郎。そんな顔で言うな。オレの理想は、理、想は、り、そ、う、は。
 そんなサスケを前にして長期的家族計画を語れるはずもなく、オレは黙って頷いた。



作ろうハニー
(二人で、大切な大切な家族を、さ!)



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