※性描写注意




 今日、自宅に帰ってみると、先に部屋に訪れていたシカマルの機嫌が思わしくないことに気付いた。呼びかけても応えることをしないし、帰宅してから一度も目が合わない。けれど、ただそれだけで、何か言ってくる、ということはない。逆にそれが、何を考えているのか窺い知ることができず、サスケは不安だった。
 何かしてしまったのだろうか、と思いを巡らしてみても、何も思い至ることはない。シカマルの出す空気に耐えきれなくなり、少し外に出ようとシカマルに背中を向けた。何を言っても返事はないから、何も言わず出て行こうとドアノブに手をかけると、ぐいと腕を引かれた。


「どこ行くんだよ」


 振り向くと、不機嫌そうに眉をひそめたシカマルが目に入る。鋭い視線がサスケを射抜いて、身を竦めてしまう。掴まれた腕がぎりぎりと握り締められ、サスケは痛みに顔を歪めた。シカマルがいつになく低い声で、同じ言葉を繰り返した。視線を彷徨わせたあと、シカマルと目を合わせる。感情の読めない瞳が、サスケを見つめる。


「ちょ、っと……散歩、に」
「今。行く必要があんのか」
「……ないけど」
「けど、なんだよ」


 責めるような語調で、シカマルが続ける。それから逃れようと腕を払おうとするが、掴む手の力が強くなるだけで効果はない。ミシミシと骨が軋む。その手を離そうと指をかけるが、とても引き剥がせない。そのまま腕を引かれて、バランスを崩す。そこで足を払われてそのままフローリングに腰を打ち付けて転がった。腕を掴まれていたせいで上手く受け身を取ることもできず、打ち付けた腰の痛みに呻く。


「な、に……ん、ぐ」


 この凶行の意図を知ろうと口を開いた途端シカマルの手が口を塞ぐ。サスケの呼吸を奪うように鼻も口も押さえたシカマルは、サスケの身体を跨いだ。無遠慮に下腹部へ手が伸ばされ、下着の中に侵入される。シカマルの意図に気づいたサスケが身を捩ってシカマルの下から這い出ようとするが、顔を押さえつけられ、圧し掛かられてしまっている状況ではほとんど意味をなさなかった。
 塞がれた口で声を上げて制止しようとするが、シカマルの手は止まろうとはしない。ぐ、と急所を掴まれてサスケは硬直した。触れる手には、サスケを気遣う様子は一切ない。強引に扱き上げられ、脚をバタつかせたがシカマルはサスケを見下したまま手を止めることはなかった。訳の分からない状況にも関わらず、相手がシカマルだと思うと本気で暴れることもできない。半ば乱暴に触れられても徐々に息が上がってきて、サスケはそれを隠すように唇を噛んで細く息を吐いた。ふ、とサスケを弄んでいた手が離れていき、ほっと息をつく。それも束の間で、腰元をがっと掴まれてそのままうつ伏せに押さえつけられた。未だ腰元を掴む手に、シカマルの目的が分かる。


「や、め……シカマルっ」


 やっと自由になった口を開いて制止の言葉を紡ぐが、下着ごと衣服を掴んだシカマルはそれに耳を傾けることなく、それを引き下ろした。すぐに腰を掬い上げられて、秘所を露わにするような体勢にサスケは頬に朱を走らせた。
どうすればシカマルを止めることができるのか、動揺する頭で考える。どうして機嫌が悪かったのか、どうして何も言わず行為の及ぼうとするのか。これさえ分かれば、行為に応えても構わないのに。あれきり何も言わないシカマルが別の誰かに思えてしまって、怖い。
 後ろでシカマルが動いた気配がして、サスケは肩を震わせた。その直後にひた、と柔らかく熱を持ったものが触れる。それがシカマルの舌だということに気付くのにそう時間はかからなかった。周りをぐるりと動いた舌はナカへと侵入してくる。フローリングに額を押し付けてサスケは目を閉じた。
 このまま、いつものように優しく、焦れったいくらいに慣らして、労わるように耳元で名前を呼びながら入れてくれたら、と願った。そうしたら、今までのことはなかったことにしてもいい。何度も心の中で願ったが、舌はすぐに離れていき、もっと熱く猛ったものがひたりと触れた。さすがにまだ、それだけじゃ無理だ。さっと血の気が引いていくのが分かった。


「まっシカマル、無理、だっ……う、あ!」


 ろくに慣らされてもいないところに熱をねじ込まれて息が止まる。後ろでシカマルが舌を打つのがサスケの耳に届いた。一瞬動きを止めたシカマルだったけれど、そのままぐっと押し込んでくる。全身から脂汗が噴き出した。今までの行為すべてに痛みが無かったとは言わない。けれど、そこにはいつもシカマルの気遣う声があった。今はそれすら無い。ただ、痛みと恐怖しか無かった。
 そうしてがくがくと揺さぶられても快感など得られることはなく、こんなの嘘だと自分に言い聞かせる。そうでもしなければおかしくなってしまいそうだった。手を握り締めて耐えようとするがナカを引っ掻き回される感覚に呻き声が洩れてしまう。
何をしてしまったのか分からない。でも理由なくこんなことをするはずがない。きっと自分が悪い、そうサスケは思った。こんなことをされてもシカマルに嫌われるのが怖かった。


「ぅ、は……っごめ、んっなさ……! ゆる、し……しか、ごめ、ん、ひっぅ」


 一度口を開くと、堰を切ったように言葉が溢れた。ごめんなさい、ゆるして、きらわないで。額を押し付けて目を閉じているのに、次から次へと涙が溢れる。不意にシカマルの動きが止まる。ずる、と身体に埋まっていた熱がなくなり、ほっと息をついた。肩を掴まれてのろのろと顔を上げると、涙で歪んだ視界に顔色を悪くしたシカマルが映った。


「わ、り……サスケ、悪い……!」


 涙で濡れた頬をシカマルの指が拭う。やっと感情のある声を聞いて、サスケの胸にほんの少しの安堵が訪れた。優しく優しく涙を拭っていくシカマルは今にも泣きそうな顔をしていた。身体を仰向きにして、大人しくそれを受け入れていると、シカマルがもう一度、悪い、と呟いた。戦慄いた唇と震えた声に、シカマルの動揺が窺える。


「ごめんな……お前は悪くねーんだ、ごめん、オレが、サスケは全部オレのもんだって、みっともなく嫉妬しただけで、悪いサスケ、許してくれ……」


 そう言ってシカマルはサスケの胸にとん、と額を押し付けた。汗に濡れたシャツに手を伸ばしてくしゃ、と握る。シカマルが、ごめん、とまた囁いた。声からは後悔がひしひしと伝わってくる。
 嫌われた、わけじゃなかった。そこに一息ついて、サスケはシカマルの頭を抱き締めた。よかった。消え入るように呟いたサスケは、ふっと意識をなくしてしまった。




Invidia



111010





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