寝ても覚めても誰かのことを考える、相手はいつだって決まっていた。私の初恋の人はいつも真っ直ぐな人だ。あの人は今何をしてるんだろう、そんなことを考える自分に頬を染めて高鳴る鼓動を押さえようと深呼吸。今まで何度も繰り返してきたこと。白眼なんて使わなくても、遠くにいる彼を見つけることが出来たのも、彼にずっと恋をしていたから。彼のおかげで私がどれだけ強くなることが出来たか、きっと彼は知らない。そして、突き付けられた現実がひとつある。それは、彼が私を見てくれることはないということだった。ずっと彼を見てきた。彼の視線の先にいるのはいつだってサクラちゃんだ。悲しいけれど、嫉妬に狂うなんてことはなかった。直したはずのあきらめ癖が、また私に戻ってきた。叶わない恋をいつまでも抱えて、私は前に進めないまましゃがみ込んでいた。
 そんな私の手を取って立ち上がらせ、背中を押したのは―――。

「ヒナタ、どうした?」

 私の突然の訪問に驚きながらも部屋に招き入れてくれたサスケくんは、なかなか口を開こうとしない私に問いかけた。いつもと違って、声が震えていた。私の纏う空気から、何かを感じ取ったからかもしれない。俯いていた顔を上げ、サスケくんの方へ向ける。澄んだ瞳が私を覗きこんで、優しくその先を促す。
 静かな部屋に私の小さな声が響く。


 ずっと好きでした、と彼に伝えました。この恋を終わらせてあげないといけないと思ったから。彼は困ったように笑ってありがとうと言ってくれました。大変な勇気が必要でした。震える足と声に困りながら、それでもはっきりと言葉に出来ました。自然と笑って話すことが出来ました。不思議と涙は、出ませんでした。


 ぽつりぽつり、と言葉を紡ぐ最中にサスケくんが相槌を打つことはなく、黙ってこちらを向いて聞いてくれていた。そして私がすべてを吐きだしたあと、真っ直ぐ目を見てふっと笑みを浮かべ、きれいな手が私の頭を優しく撫でていった。

「がんばったな」

 サスケくんに頭を撫でられ、暖かい声でそう言われて、ぎゅうと胸が締め付けられる。終わった恋の切なさで苦しいわけじゃない。目頭が熱くなり、泣いてしまうと思った。笑って全部終わらせたかったのに。ここで涙を見せたくないのに。そう思っていると腕を引かれ、サスケくんの胸に抱かれた。緩く抱きしめられ、同じ言葉をもう一度囁かれ、静かに涙が流れていく。私が誰を好きでも構わない、そう言って傍にいてくれるサスケくんに付け込んでいる気がした。でも、この涙は彼のために流す涙ではない。ちゃんと初恋を終わらせることが出来たことに対する安心からくるものでもあるけれど、一番は違う。サスケくんの表情を、声を、仕草を、優しさを、涙が出るほどに愛しく思ってしまったから。
 彼を想ううちに、サスケくんを思い出すようになって、いつしかサスケくんを想う日の方が多くなって、多分そのときから私はすでにサスケくんに恋をしていた。
 変わり身の早い女だと思われてしまうかもしれない。サスケくんの初恋をもらっておきながら、私は散々サスケくんを自分の初恋のために利用してきた。それでも、こんなにも愛しさがあふれるから。

「サスケくん、――」




初恋じゃなくても、いいですか?
(あなたに、をしたの)


御題提供:確かに恋だった 様


0110320日記ログ


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