※転生ネタ










 七夕だから短冊に願い事書こうぜ、なんてナルトやキバが言い出しそうなことをサスケが言い出したものだから、オレはあっけにとられてしばらく反応することが出来なかった。場所はオレの部屋、当然短冊なんてものはないから、サスケは自分の鞄からルーズリーフを取り出した。おそらく短冊の代用とするのだろう。シャーペンをくるくる回しながら何にしようかな、なんて鼻歌でも歌い出しそうなサスケの横顔を見ていると思わず口元が綻んでしまった。

「シカマルも願い事考えろよ」
「へーへー分かりましたよっと」

 サスケから渡されたルーズリーフに視線を落として、何を願うべきだろうかと考えてみる。馬鹿みたいな願い事はたくさん思いつくが、真面目に考えてみると案外思いつかないものだった。これだ、と声が聞こえたのでサスケの短冊を覗いてみた。

「第一志望合格だろ、ここは。受験生だしな」
「……それはそうだけどよ、アルタイルもベガも16光年24光年先だっけか。叶うとしても16年先とかそれ以上だぜ」
「16年とか何浪してんだよ…ナシだな」

 受験生のささやかな願い事が書かれたルーズリーフはぐしゃぐしゃと丸められてしまった。新しいものをもう一枚出して、サスケはうーんと唸った。悩むサスケを横目に、白い紙面の上にシャーペンを走らせる。どうせ遊びの一環だ、何も深く考える必要もない。ずっとサスケと一緒にいられますように。子供染みた願い事だけれど、サスケの反応如何で面白いことになりそうだった。ひょい、とオレの手元を覗き込んだサスケはぴた、と動きを止めて、決まり悪そうにオレを見上げた。

「なに…おまえロマンチストなの」
「ん、いいだろ? 今度はずっと一緒にいられるように願っとくんだよ」
「……『今度は』?」

 サスケが首を傾げた。それからオレも、自分の言葉に首を捻った。無意識のうちに「今度は」と言ったけれど、それは妙だ。まるで、以前一緒にいることが出来なくなってしまったかのような言葉。サスケとは高校に入学して出会って以来離れたことはない。仮に離れることがあるとしても、それはこれから先の未来の出来事のはずだ。

「…いや…なんだ…なんで『今度は』っつったんだろな?」
「暑さで頭おかしくなったのかよ」

 はは、と笑った横顔はオレの言葉を特に気にしていない風だった。ふ、と息をついて目を閉じた。


 小学校を卒業するかしないか、それくらいと思われる少年の背中が見えた。見たこともない服を着ている。なぜか、オレはそれがサスケの後ろ姿だと知っていた。ひどく遠くに見えるその背中に、手を伸ばしたいと思いながらも結局見ていただけだった気がする。ほんの少しだけ窺うことが出来たサスケの表情は、オレの知っているサスケの表情とは全く違った。その瞳は暗くぼんやりとしている。そこからは様々なものを拒絶する意思が見てとれた。
 少年の背中がぐんと大きくなり、服装が変わる。着物のような服だった。こちらに向いたサスケの瞳を見た瞬間に肌の上をぴりぴりとした刺激が走った。背筋はぞわりと粟立ち、息が浅くなる。その瞳には何も映っていなかった。ぎら、と瞳が揺らぎ、真紅に染まる。赤い瞳なんて普通じゃないはずなのに、それが当然なのだと感じる自分がいた。
 その姿に、じわりと汗が滲んだ。仕方のないことだ、言い訳が頭に響く。何が。守らなくてはならないのだ。何を。だから、殺さなくては。――誰、を。




「シカマル?」

 サスケの声にはっと我に返る。さっきのは、一体なんだったのだろうか。白昼夢でも見ていたのか、じとりと濡れた手のひらを拭う。そのうちに、今頭を過ぎったことを忘れてしまった。ひどく恐ろしいことだったように思う。は、と短く息を吐いた。

「大丈夫か?」

 そっとサスケの指が頬に触れる。そんなにひどい顔をしているのだろうか。はは、と笑うと、それはまるで湿度を持っておらず、乾燥していた。サスケが身体をこちらに倒してきた。それを抱きとめると、サスケの腕が背中に回る。首元に顔を埋めたサスケは柔らかく息を吐いた。

「……『もう』どこにも行かねえから」

 さっきのオレの言葉に合わせたような言葉に、笑みがもれた。ただの言葉遊びに違いないのに、どうしようもない安堵に駆られてしまう。茶化すようなことでも言ってやりたいのに、今口を開くと声が震えてしまいそうだった。サスケをもっと近くに抱き寄せて、身体を丸めるように腕を回す。もぞ、と動いた頭に少し隙間を作ると、サスケが顔を上げた。引き寄せられるようにキスをして、もう一度抱き締める。
 今度は、大丈夫だ。頭の中で響いた言葉に頷いて、オレは目を閉じた。



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