一ヶ月で終わるだろうと思っていた任務が長引いて、結局里に帰ってくることが出来たのは里を出てから二ヶ月以上経ってからのことだった。報告を済ませて、任務を終えたことの安堵に緩む気を引き締めながら、のろのろと帰宅した。
 家の鍵を取り出し、差し込んで回すと、何の抵抗もなく回り切ってしまった。まさか鍵を掛けることなく任務に出たはずはない。そうすると、この家の合い鍵を持っているのはただ一人しかいなかった。
 考えてみればサスケと最後に会ったのはいつのことだろう。いや、たしかこの任務に行くというのは直接伝えたはずだから、二ヶ月前、ということになるのか。しかし、それだってほんの束の間の出来ごとだった。二人だけで時間を過ごすとなると、それほど記憶を遡ればいいか分からないくらいだ。


 ガチャ、とリビングのドアを開けると、テレビを見ながら棒アイスを咥えているサスケが驚いた顔をしてこちらに振り向いた。咥えたままだった棒アイスを口から離して唇を舐めたサスケは一瞬視線を彷徨わせた。

「……おかえり」

 ちら、とこちらを見たあとサスケはすぐテレビに顔を戻してしまった。はにかむような言葉に頬が緩むのを感じたが、それに気付かれないようにきゅ、と唇を引き結んで、ただいま、とサスケの後頭部に言葉を投げかける。赤くなった耳に、相変わらずの照れ屋だと笑ってしまう。それに気付いたのかサスケはオレに振り返って、不満そうな顔を向けた。
 その顔を見ていて、ふと違和感を持った。何が変わったのか分からないが、何かが確かに変わっているような気がする。じっと自分を見つめるオレに怪訝そうな視線を向けたサスケは、アイスの最後の一欠片を口の中に入れて、残った棒を捨てるべくすい、と立ち上がった。

「ん?」

 違和感は確信に変わった。サスケの頭の位置が明らかに高くなっている。出会ったときにはまだ腕に抱けばすっぽり収まるサイズだったはずだが、今のサスケを見ると、まだ未成熟な部分は見られるが、もうほとんど成人男性と言っても差し支えない身体つきになっている。もちろん、オレが留守の間にいきなり成長した、とか言うわけではないのだろう。徐々に伸びる身長や、少しずつ増える筋肉量など、小さな変化はオレと一緒にいる間も常にあったはずだ。だが、それがあまりに小さすぎて気付いていなかったらしい。そして二ヶ月後、少し離れて再び会ってみると、その変化を顕著に感じたわけだ。
 サスケもその差に気付いたのか、目を見開いていたが、普段通りの澄まし顔を取り戻してオレのそばに寄ってきた。

「背ェ伸びたな、サスケ」
「自分じゃよく分かんねえけど、みたいだな」

 前、と言っても随分と前のことだが、この歳下の恋人と付き合い始めた当初は、オレの顔を見るときは顔からこちらを見上げていたものだったが、今となってはほとんど顔を動かすこともなく、サスケが目線を少し上げるだけで、簡単に目が合う。嬉しいやら悲しいやら、だ。
 付き合いたてのこいつはまだ13歳だか14歳、正直この子供の心がいつどのタイミングで変わるか知れない中で時間を共にするというのはかなりの賭けだった。愛しいと思うからこそ、オレだけに縛っておくわけにもいくまいと、サスケが離れていくことを望んだときはそれを受け入れようという心づもりがあった。それも理由のひとつとして、オレはまだサスケとはプラトニックな関係止まりだったのだ。一番の理由はいたいけな少年と身体を結ぶだなんて、犯罪以外の何物でもないと良心が咎めた、ということではあるのだが。
 しかし今見てみればサスケはもう立派な一人の男として見れる程度には成長している。身長だって今やオレの肩を越している。ああ、あのとき「お前が18になるまでは手を出さん」なんて言うんじゃなかった。

「アンタ、今後悔してんだろ」

 心まで読まれた。観察眼はさすがサスケというところだった。ふ、と目を細めてサスケが笑う。サスケはこんな大人びた笑みを浮かべる奴だっただろうか。ふー、と息を吐いて肩を竦めた。ガキの成長なんて、早すぎてついて行けねえ。ゆっくり目蓋を押し上げると、サスケの手がとん、と肩に触れた。その手に少し体重が乗って、すいとサスケが背伸びをする。そのまま柔らかく重なった唇に驚きを隠せずにいると、サスケはすぐに唇を離してふいと横を向いてしまった。そして手に持ったままだった棒を捨てるためにゴミ箱へと向かう。後ろから見ても首まで赤くした様子が見て取れた。いっちょまえにキスまでしてきておいて、やっぱり肝心なところは以前と何ら変わりがない。
 背中を向けたサスケの腕を掴んでぐいと引き寄せる。後ろから抱き締めると、やはりその身体をすっぽり抱き込むことは出来なかった。

「18になったら、ってやつ…撤回すっかなあ」
「……だっさ」

 顔を真っ赤にしてそう言ったサスケの顎を掬い取って、唇を重ねてする、と舌を這わせると当たり前のように触れ合った熱い粘膜に、やっぱり撤回しよう、と決めた。



a grown boy


110717日記ログ


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