サスケが部屋を訪れてから、三十分ほど経過しただろうか。まあ座れ、と促したときにああ、と答えてから、声を聞いていない。膝をかかえてじっと足元を見つめている。何かあったのか、皆目見当がつかない。不意に視線を感じて顔を向けると、目が合った。気まずそうにさっと顔を背けたサスケだが、どうしてそうなるのか分からない。一応は、恋人であるのだし、照れて顔を背けるならまだしも、気まずそうにするのはやめて欲しいものだ。

「サスケ、もう少しこっちに来い」

 そう言って、自分の隣をぽん、と叩いて見せる。じっとこっちを見たサスケは腰を浮かせていそいそと近づいてきた。オレのすぐ隣に腰を下ろしたサスケは変わらずあまりこちらを見ようとはしない。サスケに気づかれないように、はあ、と小さく溜息をついて、サスケの腕を引いた。

「どうした?」

 ぽすっと簡単に胸に顔を埋めたサスケの頭に頬を寄せて尋ねてみる。唸ったサスケはおずおずとオレの背に腕を回してきた。服がぎゅう、と握られる。額を押し付けてきたサスケは、はあ、と深い息をついた。

「今日、アンタの誕生日だって」
「ん? ああ、そういえば、そうだな」

 自分でも忘れていた。カレンダーを見てみると確かに、誕生日だ。それとこれとはどういう関係なのか、まだ疑問は残る。サスケが続けるのを待つ間、そっと襟足に指を絡めて梳いた。

「何かやりたいけど、欲しいもんとか思いつかなくて」

 それで今の今まで黙っていたのか、と思うとふっと笑いがこぼれそうになる。ただでさえ危うい機嫌がそんなことしでかすと急降下して帰る、なんて言い出しそうでなんとか押しとどめるが、じわりと胸が温かくなるのは避けられなかった。

「ならオレ本人に聞けばいいだろう」
「……驚かせたかったんだよ」

 ぎゅっと手に力が入ったのか服が引っ張られる。ひとつ年下の恋人というものはここまで可愛いものなのかと、サスケと付き合っていて何度思ったか知れない。サスケの背に手を回して、宥めるように撫でるとサスケは不服そうに身を捩った。

「特に欲しいものはないが…強いて言うなら、」

オレの言葉で、サスケがのろのろと顔を上げた。首を傾げるサスケにこぼれる笑みを隠せないが、緩んだままの表情でサスケの頬に手を伸ばし、つつ、と唇をなぞった。

「サスケからキスして欲しい」

 言葉が届いてから数秒後、ぼんっと音がするくらい一気にサスケの顔が紅潮した。何度繰り返してもウブなままのサスケは未だキスするだけでもこんな反応を見せてくるから、本当にからかい甲斐がある。どうする、とわざと低く囁くと、サスケは恥ずかしさで目を潤ませた。サスケがどう出るか、じっと待っていると、意を決したように肩を掴まれた。

「……目、つぶってくれ」

 ふっともれた笑みとともに分かったと呟いてそっと目を閉じる。しばらく何も感じなかったが、肩を掴む力が強くなったと思ったときに、唇に柔らかい感触があった。サスケからのキスなんて、数える程度にしかないから、不覚にも胸が高鳴る。目を開けると、サスケがこちらを窺うようにぱしぱしとまばたきを繰り返していた。

「ありがとう。いい誕生日プレゼントだった」

 ぱっと明るくなった表情に気をよくして、口角を上げた唇にそっとキスをした。サスケが少し驚いたように目を見開いたが、すぐにはにかんだような笑みを見せる。控えめに身体を寄せてきたサスケの身体を抱き締めると、耳元でふっと息を吐くのが聞こえた。

「誕生日、おめでとう。……ネジ、好きだ」

 声だけでなく、心臓までもがサスケの照れを伝えていて、オレは笑いだしそうになるのをこらえながら、オレもだ、とサスケの耳に吹き込んだ。



kiss me


110703日記ログ


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