最高気温を更新し続ける毎日にいい加減耐えきれなくなったのか、かき氷を食べに行こう、と言い出したのはキバだった。集まったのは変わり映えのしない4人で、サスケ甘味処に辿り着くまでに暑さにやられてしまったのか、着いた途端にテーブルへ突っ伏してしまった。ナルトとキバは嬉々としてメニュー表を見ている。隣に座るサスケをメニュー表でつついてみると、サスケは顔をこちらに向けて視線を上げた。言外に何か用か、と告げる瞳に苦笑する。サスケに見えるようにメニュー表を向けると、サスケはそれをじいっと見つめた。

「お前ら決まった!? オレってばブルーハワイにする!」
「オレはレモンな。お前らは?」

 もうすぐ念願のかき氷にありつけるとうきうきしたナルトか身体を揺らしている。それを横目に見ながらサスケに決まったか、と問いかけた。メニュー表を睨みつけたまま何も言わないサスケに痺れを切らしたのか、キバが手を挙げて店員を呼んでしまった。サスケの様子を見るにまだ決めかねているという風だ。

「何悩んでんだよ」
「……宇治金時かみぞれか」

 唸るサスケをよそに店員はテーブルまで来てしまう。キバとナルトはそれぞれ自分の注文を大声で済ませ、店員がこちらへ目を向けた。メニュー表から視線を外さないサスケを見て、店員の方へ顔を向ける。

「宇治金時とみぞれで」

 かしこまりました、と笑顔で去って行く店員を見送ってサスケの方を見るときょとんとした表情でこちらを見ていた。わずかに首を傾げたサスケの頭を撫でたい衝動に駆られたけれどそれを抑えて、目を細めて笑いかけるに留める。

「半分ずつ、な」
「……おう」

 心なしか頬の血色をよくしたサスケは無意味にメニュー表の角を触っては離し、触っては離しを繰り返して、ちらりとこちらを一瞥する。そのあと額をテーブルにつけてしまった。そのままの状態でくぐもった笑い声が聞こえ、いそいそとこちらを向いたサスケははにかんだ笑顔を浮かべていた。
 トントン、という音が耳に届いてその方向を見てみると、キバの指がテーブルを叩いていた。かき氷が運ばれてくるほんの少しの時間すら待てないのかと半ば呆れながら視線を上げるとげんなりとした表情を浮かべたキバと目が合った。

「体感温度が2℃上がった気がする……!」
「何でだよ」
「頭いいクセにそんなことも分かんねえのかよ!」

 はぁ、と大きな溜息をついたキバは大げさに肩を竦めた。その仕草は癇に障るものだったけれどここで腹を立ててわざわざ自分から暑くなるのも面倒くさい。適当な返事をしてキバから視線を外す。その隣ではナルトが伏せたままのサスケをメニュー表の角でつついてサスケの怒りを買っていた。アホだ。


 サスケとナルトの地道な攻防戦が繰り広げられているうちに、先ほど注文したかき氷が運ばれてきた。思い切りサスケに摘ままれて赤くなった鼻先を押さえたナルトの前に念願のかき氷が置かれる。途端に痛みも忘れたのか表情を明るくするナルトはいつにも増して幼く見えた。続いてキバの前にもかき氷が置かれる。そしてサスケの方に宇治金時、オレの方にみぞれのかき氷が置かれてすべて揃った。
 早速スプーンで掬ったかき氷をナルトが口に運ぶ。どう見ても量が多すぎる。口にしてすぐに眉を寄せてこめかみをぐりぐりと押さえていた。同じく、キバもナルトの隣で呻き声を上げていた。やっぱりアホだ、と思いながら少なめに氷を掬って口に含む。爽やかな甘さが口いっぱいに広がった。そのとき視界の隅で何か動いて、顔を向けるとナルトと同じように眉をひそめているサスケがいた。ナルトとのときとは違って、その表情を可愛いと思ってしまうのは、愛ゆえだろうか。





「こっち食うか?」

 半分ほど食べ進めた頃にサスケに問いかけると、サスケはスプーンを口に含んだままこくん、と頷いた。それを見て軽く氷をスプーンで掬い上げ、サスケの目の前に持って行く。躊躇なく開かれた口にそのままスプーンを差し込むと、そのまま口が閉じられた。手を引くとスプーンにあった氷はサスケの口の中へ消えていた。

「どっちが美味い?」
「あー……どっちも。……ん」

 スプーンいっぱいのかき氷を目の前に差し出された。抹茶色が鮮やかでその中に小豆が覗いている。これを一度に口にしたら頭痛くなりそうだった。けれど、そのまま顔を寄せてかき氷を口に招き入れた。程よい苦みと甘みが口いっぱいに広がる。たしかにみぞれも宇治金時も甲乙つけ難い。同じ味を共有したことに目を見合わせて微笑みあう。緩む口元をごまかすために自分の氷を掬って口に入れた。

「止めよう! そういうの!」
「暑い暑い見てるだけで暑いっていうかこう、なんつーの!? ああ、そうだお前ら2人鬱陶しいってばよ!」

 スプーンを握り締めたキバとナルトが身を乗り出してきたあげく、訳の分からないことを喚いた。怪訝そうな顔をしたサスケがナルトに向けられたスプーンを嫌そうに手で払う。またこいつらは、と頬杖をついて何が、と返す。オレの様子にがっくりと肩を落としたキバは力なく腰を落として溜息をついた。

「ここお前んちじゃねえんだからよォ」
「だから何だよ?」
「だから……イチャイチャすんなっつってんだよ!」
「はァ?」

 キバの言葉に目を丸くする。キバの隣で聞いていたナルトはうんうんと何度も頷いている。隣のサスケを見ると、氷を口に運ぶ途中で手が止まり、口を半開きにしてオレと同じように目を丸くしていた。そのサスケがゆっくりと手を下ろし、スプーンを置いた。

「……どこが?」
「はッ!?」
「いや、別にイチャイチャしてねえだろ」
「……サスケくん正気?」
「あン?」

 その応酬を見ているうちに、キバが心折れたのか引き攣った笑いを浮かべた。ナルトも隣で同じような表情をしている。まるで冷たいかき氷を一気に口に入れたようにこめかみを押さえたキバは閉じていた目をぼんやりと開いた。

「言えばキリがねえけどな……まず、お前ら座る距離が近い。あとさり気なく『あーん』とかすんな。家でしろ。目見合わせて楽しそうに笑うな。ていうかもうすべての動作がイチャイチャして見える」
「は、普通だろ」
「普通じゃねえってばよ……見てるだけで暑いんだっつの!」
「知らねーよ」

 思い返してみても、とくに妙な行動を取った覚えもないしイチャイチャもしていない。キバとナルトの過剰反応としか思えず二人の訴えを足蹴にする。適当にあしらわれたことによよ、と泣き崩れる真似をしたキバがナルトにしな垂れかかった。そのキバの背中を撫でるナルトも泣き真似をしている。面倒くさいことこの上ない。その様子を無視しているとサスケも同じく無視していた。かき氷を掬って食べるサスケを見ていると、少し掬いすぎてしまったのか餡子が口の端についてしまっていた。それを舐めたサスケだったけれど、まだほんの少しだけ残ってしまっているのを見て、無意識に手が伸びる。

「まだついてんぞ」
「ん、悪ィ」

 親指で拭った餡子を舐めると、少し甘い。やはり抹茶味と相俟って丁度いい味になるように調節された甘さらしい。すぐにかき氷を食べる作業に戻ってしまったサスケに思わず口元が綻ぶ。ふい、と顔を前に向けると白い目をしたキバとナルトの視線を一身に浴びていた。

「そういうのをヤメロって言ってんだよ!」

 どちらのものか、はたまた両方か、そんな絶叫が甘味処に響いた。



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