※性描写注意












 オレは、頭がおかしいに違いない。




 既にそれぞれ中忍になり、中には上忍になった者もいるくらいなのに、今日は揃いも揃って木ノ葉図書処の本の整理に駆り出されていた。なんというD級任務。そもそもこれは任務というよりは手が空いている者は手伝って来い、という無給労働だった。特にやることもなく、久々に顔を合わせたオレたちは結局文句を言いながらも気付けば膨大な量の蔵書を目の前にしていた。

「これ、いつ終わるんだってばよ……」
「赤丸と修行してりゃよかったー!」
「めんどくせー……」
「お前ら口動かす暇があったら手ぇ動かせウスラトンカチ共がぶっ飛ばすぞ」

 ぶつぶつと文句を垂れ流し続ける三人にたまらず暴言を吐いてしまった。その様子をサクラといのは微笑ましそうに見たあとそれぞれの作業に戻る。その近くでヒナタが本を運び、それを受け取ったシノがテキパキと棚を埋めていく。チョウジは、と辺りを見回すと、カウンターの奥に後ろ姿が見えた。
 はあ、という溜息を背後に聞いて身体の向きを元に戻すとシカマルが仕方なさそうに行動を始めようとしたところだった。と、椅子に足を引っ掛けたシカマルがバランスを崩してこちらに倒れ込んできた。突然のことに思わず手を出したがタイミングが合わずにシカマルの顔が頬を掠める。オレの背後にある棚に手をついたシカマルの顔が思った以上に近くて呼吸が止まる。まるでキスでもされそうだ、そんなことを一瞬でも考えた自分にやるせない苛立ちを覚えた。

「っと、悪ィ」
「いや……」

 何事も無かったようにそこから自分の持ち場に移るシカマルを目で追って、早鐘を打つ心臓を必死で沈めようとした。しかし意識すればするほどにコントロールは難しく、顔に血液が集中してくるのが分かり目元を隠すように覆った。身体のすべてが心臓にでもなったようにどくどくと脈打っている気がする。は、と洩れた短い息がその場にそぐわないほどの熱を持っていて、背中を冷たい汗が流れて行った。
 身体の異変に気づいて、どう対処するか頭の中で議論が始まる。しばらく放置すればそのうちおさまるだろう、そう考える自分もいる。目を覆った指の間からちらりと周りを見るが、オレの異変に気づいている者はいない。しかし仮に、だ。仮に気づかれてしまったら、どうする。どう弁明するつもりだ。まさか、あの偶然の事故で、シカマルが至近距離に来ただけで、興奮して勃起しました、なんて言えるわけがない!



 結果としてオレは一旦その場を離れることにした。少し体調が悪いからトイレに行って来る、と一言残して。蔵書整理のために一般の利用者はここにはいない。可能性があるとすればあのメンバーが用を足しに来るくらいだろうが、誰か来る前にミッションをクリアしてしまえばいい話だ。
 一番奥の個室に入って鍵を締める。ドアに背中を預けて、溜息を吐いた。ぼう、とはっきりしない思考を振り切るように目を閉じる。そろそろと伸ばした指先に触れる熱に呆れてさっきとは違う溜息がこぼれていった。近くにあいつらがいるというのに、オレは一体何を始めるつもりなのか。

「……ぅ、っ」

 直に触れてみると呻き声が洩れてしまい、ぐいと唇を引き結ぶ。あの場所からいくら少し離れているとは言え、もし近くを誰かが通ったときのことを考えると、危険すぎる。唇を噛んで柔らかく触れていただけのそこを手で包みこんだ。視界を塞いで、一刻も早く処理してしまおうと手を動かし始めた。そのうち不意に、シカマルなら、と考えが過ぎる。もし触れているこの手がシカマルの手だったなら、一体どのように触れていくのだろうか。

「っあ、……っん」

 シカマルの手、と思っただけで強く引き結んでいたはずの口から声が洩れ、再び唇を噛みしめた。どうやって触れるのか。たとえばこうして、先を指先で押しつぶすように触れたり。びりびりと背中を走る痺れに膝がぐらつく。たとえばこうして、鈴口をひっかくようにして触れたり。膝が折れて、ずるずるとしゃがみ込む。足に力は入らず、頭をめぐる妄想も手の動きも止まらずに荒くなる呼吸すら止められない。
 どうかしている。シカマルがオレにどのように触れるのか考えながら、自らの熱を高めているなんて、正気じゃない。すぐ向こうにシカマルだって、他のやつらだっているのに。こんなことをしているなんてバレたら、今までの関係は何もなかったことになる。無に帰すならまだしも、マイナスになってしまう可能性だってある。それなのに、バレたらどうしよう、そんな想いすらも熱を高める材料にしてしまう自分のはしたなさに吐き気がした。
 シカマル、と声に出さず呟く。薄らと開けた視界の先、触れているのは間違いなく自分の手で、当たり前のことに落胆する。そのとき近くで足音が聞こえ、身体が硬直する。足音が近づいてきて、間違いなくトイレ内に入ってきたことがわかった。握った手はそのままに息をひそめる。

「サスケ?」
「……っ!」

 耳に届いた声に心臓が跳ねる。先ほどシカマルに急接近されたときと比べ物にならないほどに早鐘を打つ心臓に手が震える。なんでよりによってシカマルなんだ、と嘆きたい気持ちに駆られる。しかし同時に手の内の熱がどくんと脈打って見えてはいないはずなのに羞恥に顔を赤らめた。

「いや、体調悪いって。大丈夫か?」
「だ、いじょうぶ、……だ!」

 シカマルの声が優しく鼓膜を揺らす。こんな状況で、放置された熱が疼いてゆるゆると手を動かしてしまう。一枚の扉を隔てた先にシカマルがいることを考えると乱れていく呼吸を抑えることなんてできるはずもない。

「……本当に大丈夫か?」
「……ッ、……!」

 先ほどよりも近くで聞こえた声にびくりと背中が跳ねる。もう、そうもたない。止めようとしても熱に触れる手の動きは止められない。荒い呼吸と粘着質な音は抑えようと努めてはいるけれど、その努力も程度が知れている。力の抜けた膝を叱咤して腰を浮かせる。せめて流水音で、なんとかごまかさなければ。

「……サスケ」
「ッ、あ……!」

 カタ、と背にしたドアが揺れ、耳にシカマルの声が直接吹き込まれたように錯覚した。馬鹿な、ありえない。浮かせていた腰も膝から崩れ落ちてしまった。全身を駆け巡った甘い痺れに目を見開く。中途半端に伸ばした手が震えた。吐き出した熱が手を汚し、さらには床までもに散っていた。今の声が聞こえなかったはずもない。弛緩した身体を無理に奮い立たせ、手を伸ばす。流水音が頭を冷やしていく。最低だ。ドア一枚隔てた先にはシカマルがいる。何をしていたかなんてシラを切れるとも思えない。ぎゅう、と強く目を閉じて今すぐシカマルがそこを立ち去ってくれることを願うことしかできなかった。



一人遊戯



110731


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