サスケがモテるというのは、もはや自明の理だった。なぜならスタイル抜群のえろい身体に絶世の美女との言葉でも足りないほどに整った顔がついているからだ。これは惚れた欲目でも色眼鏡でも決してない。彼女を見た人間は誰しもが振り向くだろうし、そしてその姿を忘れることなど出来ないに違いない。なんせオレもそのうちの一人だ。寝ても覚めてもサスケのことしか考えていない。いつしかオレの世界の中心は彼女になっていた。
 そんなオレの最近の悩み事と言えばもちろんサスケのことだ。サスケが可愛過ぎて困る。というわけではない。いや実際可愛過ぎるのだけれど。もちろん困り果てるくらいなのだけれど。今の悩みはサスケを取り巻く男どもについてだった。付き合い始めてからサスケに言い寄る男の数は、多少減りはしたものの、それは誤差程度のものだった。言い寄ってくる男の気持ちは痛いほど分かる。分かるが許容出来るか否かと言われれば答えはノーだ。きっとやつらはオレたちが別れるのを今か今かと待ち構えているのだろう。そんなのはありえないけれど。もう手放す気なんてありはしないのだ。


 昼に待ち合わせる約束をして、その時間に待ち合わせ場所に来てみるとサスケの姿は無かった。仕事でも長引いているのだろうか、そう思ってしばらくその場で時間をつぶしていたけれど一向にやってくる気配がない。また誰かに捕まっているのかもしれないと可能性が頭を過ぎって、適度に人気の少ない都合の好そうな場所へと足を向けた。いくつか回ってみたもののサスケは見つからない。どうせどこか人の少ない場所で告白でもされているに違いない。ふい、となんとなく向かった先でやっとサスケの後ろ姿を見つけることが出来た。

「だから、あなたのことが本気で好きなんです!」

 聞こえてきた声にやっぱりな、と重い溜息をついた。相手の姿をよく見てみるけれど、その顔には見覚えがない。まあ顔は中の上といったくらいで、どこかプライドの高そうな顔をしていた。だが、ああいうやつに限ってビビりだったりする。良い格好したがる男の臭いがぷんぷんした。
 サスケの断りの言葉を遮るように何度も好きだと告げる男に遠くから見ているオレの方が苛々してくる。もっともサスケはそれ以上に苛立っているに違いない。男関係で面倒事を起こしたのは二、三度ではないから何度も五代目から注意を受けているのだ。大体の場合はサスケが男を殴って怪我をさせる、というのが多い。そういう気の強いところも好きなんだ、とつい頬が緩んでしまった。

「僕は上忍だし、僕と付き合えばいい生活も保障する。これからもっと出世だってしてみせる。絶対にあなたを幸せにする自信がある!」

 だから、とまだ続けようとする男の発言がとてつもなく気に食わなかった。ゆっくりと進めていた足を速めて二人に近づいていく。ぐんぐんと近づいて、男があっと驚いた表情を浮かべた。そのときにはもうサスケにあと一歩というところで、オレはそのまま進んでサスケがこちらに振り向く前にぐい、とサスケを後ろから片腕で抱き締めた。

「妙なこと言うのやめてもらえます?」
「な、にが…」
「こいつを幸せに出来るのはオレだけなんで」

 カッと目を見開いた男が何か言い返そうと口を開いた。けれどそんなの聞くつもりもない。空いた手で拳を作ってすぐ横の壁を大きな音がするようにだんっと殴った。一瞬怯んだ男を睨みつけてやると何か言いたげに口を開けたり閉じたりしたあと、くっと唇を引き結んで踵を返して男は立ち去って行った。ほらやっぱりビビりだよ。オレそこまで凄みのある顔でもないだろ。そんなやつにサスケをやれるわけがない。どんな屈強な男にだってくれてやるつもりはないけれど。


 そのまま抱き締めているとサスケの体温が上がってきている気がして少し顔を引くと耳や首筋まで赤くしていた。そして、自分が口走った言葉の内容が十分照れるに値するようなものだったことに気付いて、思い出したように恥ずかしくなった。本心には違いなかったけれど、本人に言うのではなく他人に宣言してしまったことがかえって顔に熱を集中させていく。サスケがこちらを向いても顔が見えないように、肩口に額を押し付けて両腕で細い身体を抱き締めた。サスケの左手がオレの腕に触れる。抱き締めていた左腕を解いてサスケの手を取った。左手同士を絡めて、ぎゅうと握る。

「いや、あの、うん…幸せにする、から」
「…うん」
「出世するし…あれだ、上忍にもなるしよ」
「うん」
「あー…一生不自由させないから、さ」
「うん」

 お前のためだったらどんな努力だって惜しみはしないから。何よりもお前のことを考えて生きていくから。
細くて柔らかい身体から、絡んだ指先から、そこから感じる温もりすべてが愛おしくてぎゅうと力を込める。ずっとこの腕の中に閉じ込めておきたいくらい大切だ。もう手放したくないし、手放せもしない。
 どくんどくんと激しい鼓動なんてとうにサスケに伝わってしまっているのだろう。サスケの鼓動だって感じることが出来るのだから。どんどんと速くなる鼓動はお互い同じだった。このあと続く言葉が、きっとサスケにも分かっている。ゆっくりと顔を上げて、耳元に唇を寄せた。

「……結婚しよう」

 サスケを抱き締める腕が震える。唇まで震えたおかげで、少し声が揺らめいてしまった。サスケの左手がぴく、と動く。恐る恐る様子を探ると真っ赤になった頬が視界に入って、これ以上ないというくらいに心臓が跳ねた。サスケから呻くような声が聞こえたかと思うと左手がきゅっと握られる。

「…よろしく…おねがいします……」

 消え入るような声で聞こえてきた承諾の返事にサスケの身体をばっとオレから引き離した。ぐるりと身体を反転させると顔を赤くしたサスケが驚きの表情を見せていたけれど、その顔を堪能する暇もなく正面から力の限り抱き締めた。身体全体が心臓になったような気分になり、耳元でどくどくと鼓動が聞こえる。

「ばか、シカマル…くるしい」
「わり…」
「…嬉しい。ありがと。……すき」
「…っ愛してる!」

 顔を見れば、赤い目元に潤んだ瞳がこちらを見ていて、その瞳には困ったような顔をしているオレが映っていた。それを気に掛ける余裕もなく、オレはサスケの唇に自分のそれを寄せた。柔らかに重なる感覚がひどく神聖なもののように思えた。



誓うよハニー
(だから二人で幸せになろう)


匿名さまリクエスト
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