四季の中でどの季節が一番好きかと言えば、オレは迷うことなく「秋」と答える。それは自分自身が秋生まれであることも起因しているのかもしれないが、どうにも夏やら冬やら、行きすぎた気温の季節というものは好きになれなかった。通例、自分の生まれた季節には比較的強い、夏生まれなら夏は平気だが冬が駄目、というような俗説がある。オレの場合は至極当てはまっているのだが、オレの隣でぐったりと横になったまま身動きひとつしないこの男はどうやら夏生まれにもかかわらず、夏が激しく苦手なようだ。
 三十分近く動きを見せなかったサスケがごろりと寝返りをうって久々に表情を見ることが出来たのは昼飯時の十二時を過ぎたころだった。


 サスケの自宅には、クーラーに類する冷房器具が無い。先にも述べた通り、サスケは暑さを得意としない。しかしクーラーが作り出す人工的な冷たさを持った冷気が酷く嫌いだそうで、どんな暑さでもクーラーを買い求めることはない。元々うちは邸の地理的観点から述べると里中心部に比べるとかなり涼しい場所に位置しており、かつ直射日光を避け風通りのよい古来の家屋構造となっているので正直なところ余程の異常気象でもなければ快適に過ごせる環境だ。中心部は各家庭がクーラーをつけ室内の暖まった空気を垂れ流しているので体感温度は気温より遙かに高い。中心部から離れた場所のうちは邸はよくも悪くもその影響を受けないのだった。雨戸を開け放ち、程よい日陰になった縁側に横になると驚く程涼しい。それでも汗を滲ませてぼんやりと瞬きを繰り返すサスケは明らかに夏バテをしていた。若手忍者のエースであるというのに、体調管理もままならないとはたるんどる! とかなんとか言うのはオレのキャラじゃないのでとりあえず手元にあったうちわで扇いでやる。このまま扇いでいると寝てしまいそうに見えた。

「サスケ、昼だしなんか食わねえ?」
「……そうだな」
「食料あるのか?」
「ある。……そうめんが」

 夏になれば食べる機会が死ぬほど増えるそうめん。嫌いじゃない。寧ろ好きだ。だからといって毎日毎日そうめんでは飽きがくるというもので。サスケもそう思っているのだろうが、それ以外に何かあるのかと言われると……いや、サスケんちの食料事情まで把握してねえからなんとも言えないのが現実。第一この暑さの中他に何か食べることが出来るか考えればそうめんを食べるしかない。

「そうめんな。茹でてくる」
「おー」
「サスケはめんつゆとか用意な」
「分かった」

 勝手知ったる台所、というかそんなに料理をするわけではないのだが、自宅の台所に立つよりはここで何かを作る方が多いのは事実だ。サスケは放っておくとナルトと並ぶ悪食生活を送る。一人で生活をしているとそうなってしまうのか、味覚が多少人と変わってもいる。料理自体はサスケの方が上手いが手伝うことが多い。だから例えば鍋の場所だとか、食器の場所だとかはもう把握してしまった。特に困ることもなく湯を沸かして、そうめんを探す。さすがにそうめんがどこにあるかまでは知らない。

「そこ。右の二番目」
「お、ここか」
「そう。つかめんつゆ少ししかねえ」
「どれくらいだよ」
「少し。醤油で適当につくる」
「え、お前頼むぞまじで」
「任せろ」

 サスケ調合のめんつゆは少し恐ろしい気がしていたが、食べてみたらなんてこともない。元が醤油なんだから当たり前といえば当たり前だ。少しみりんが強い気もしたが疲れ切った胃にはずいぶんと優しい昼食となった。夏バテしている割にはサスケはよく食べたが普段よりは進んでいなかった。というか普段が食べ過ぎなだけの気もしてきた。
片付けるのも面倒になってそのまま横になる。テーブルの間からサスケの方に目をやると同じように横になっているのが目に入った。オレに気付いたのか顔をこちらに向けてふ、と笑みをもらした。相変わらず綺麗なことで。声に出さず、サスケがオレの名前を呼んだ。なんだよ、同じく声に出さずに答える。

「セックスしたくなった」

 絶句した。
 さっきまで暑くてぐったりしてたというのに自ら暑くなってどうするんだお前、と色々言いたいこともあったが中々言いたいことがまとまらない。つか昨日はこっちが誘っても散々暑いって聞かなかったじゃねえかなんだよお前。自由過ぎる上にそれに振り回されている自分がどこか喜んでいる辺りどうしようもない。どう反応しようか考えているとサスケが起き上がった。焦れたか気が変わったか、後者だと非常に残念だ。と思っていると噛み付かれた。唇に。さっきまで氷でも噛み砕いていたのか冷たい舌が触れる。それもすぐに熱を取り戻していくのを感じながら柔らかく舌を甘噛みして唇を離す。にやにやといって形容が似合う、それでも上品さを含んだ笑みを見上げた。

「暑いんじゃなかったのか?」
「暑くてしょうがねえからこの際極めてみようかと思ってな」
「へーへーそうですか」
「付き合うだろ?」
「当たり前」



夏の暑さも敵わない
(触れた皮膚の下の熱さとか、それ以上に熱いこの想いとか?)


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サスケにセックスしたいって言わせたかっただけ。



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