※学パロ



 ぼんやりとしているうちにHRが終わったらしく、クラスメイトが椅子を引く音でハッと我に返った。視線の先の空はすでに夕焼けで赤く染まり、夕暮れを告げている。帰ろう、と軽い鞄に触れたところで明後日にテストがあることを思い出し机に置きっぱなしの教科書を手に取った。手に取った中でもどれを持ち帰るか吟味して、選び取った数冊を鞄にしまう。いつもより少しだけ重くなった鞄を肩に掛け顔を上げるとちょうどサスケがこちらへ歩いてきたところだった。

「持って帰んのそれだけかよ」
「どうせ教科書開かねーしいいんだよ」

 肩を竦めてサスケは少し目元を下げて笑った。なかなか見られない笑顔に心臓が跳ねる。見ていられなくて逃げるように視線を外すと、その先のドアから見慣れた二人の姿が飛び込んできた。帰ろうぜー、なんて言って重そうなスポーツバッグの位置を直しているキバは、恐らくオレと同じように今日滅多に持ち帰らない教科書を大量に詰め込んでいるのだろう。それはきっと隣のナルトも同じだった。
 行こう、とサスケに声を掛けられ、それに返事をして出入り口に向かう。もう少し教科書を持って帰ろうか、一瞬そんなことが頭を過ぎったけれど、先を行く三人をそのまま追いかけた。



 校門から通りに出ると、ちょうど西日がこちらに向かっていてひどく眩しい。目を細めて振り返ったキバにつられるようにナルトも後ろを向く。逆光で二人の顔はよく見えない。そっと隣を歩くサスケの顔を盗み見ると、眩しそうに眉をひそめていて、つい口元が緩んだ。

「シカマル、テスト勉強してるかー?」
「オレがしてると思うかよ。今日からだっつの。まあお前らも同じだろうけど」
「決めつけんなってば! してねえけど!」
「どいつもこいつも…ウスラトンカチしかいねえのかよ」

 どうしようもない三人の言葉にサスケが呆れたように笑って溜息交じりに呟いた。唇を尖らせてナルトはずい、とサスケに近づいた。額がぶつかるほどの近距離で睨みあった二人の様子をキバと共に眺めていると、ふふん、といったようにナルトが口を開いた。

「オレは毎日部活で忙しいんだ、帰宅部のサスケと同じにされたくないってーの!」
「まあオレはその間バイトしてんだけどな?」

 サスケの返しに反論出来ずにぐっと息を呑んだナルトははあ、と溜息をついて再び歩き出した。そしてまあその通りなんだよなーと頭の後ろで腕を組んだ。隣に並んだキバがあっと声を上げて突然挙手をした。

「今日勉強会しようぜ! サスケん家で!」
「それミョウアンだってばよ!」
「妙案な、お前ぜってー漢字書けないだろそれ」
「いやなんでオレん家なんだよ」
「広いから! あと一番綺麗だろ多分」
「だろうな。まあいいじゃねーかサスケ」

 キバの思いつきで決まった勉強会に、サスケは嫌そうに眉を寄せた。そもそも他人を自宅に入れるのを好まないから当たり前だった。だが、嫌そうに見せていても本気で拒絶はしない辺り心を許している証拠だ。溜息をついたサスケだったが、仕方ねえな、と言って勉強会を了承した。このメンツで勉強会なんかしてしまえば確実にサスケ自身は勉強出来ないというのを理解しているのかは分からないけれど。

「あ、そういえばチョウジとシノは?」
「チョウジは自習室で勉強するから塾行くってよ」
「シノも塾らしいぜーオレたちだって勉強すんのにな」
「そんな何人も部屋に入り切るかバカ」

 あの二人がいればサスケの負担も軽くなるのだろうけれど、今日はどうやら運悪く二人は不在だった。さすがにテスト二日前だしな、と思うと詰めの時期だろうから当たり前ではある。そうと決まれば腹ごしらえのための買いだしだと言って少し先にあるコンビニへと走り出したナルトとキバの背中を眺めていると少し前を歩いていたサスケが不意にこちらを振り返った。眉を下げて笑っていたサスケの顔に再び心臓を高鳴らせる。
今日勉強会をするということは、多分今日はサスケと二人きりになれるということはないのだろう。昨日も一昨日もお互いに何かと用事が重なって二人きりになれてないなと思い出す。触れたいと思いこそすれ、こんな状況で何が出来るというわけでもなかった。

「シカマル」
「ん?」

 サスケがオレにしか届かないような囁き声でオレを呼んだ。優しい声に胸が切なくなる。抱き締めてしまいたい。それが出来ないなら少しだけ手に触れてもいいだろうか。そんなことを考えていると数歩離れていたサスケがオレの方に足を進め、一瞬のうちに距離が詰まった。流れるような動作で顎が少し上がり、それと同時に目蓋が下ろされる。そうして柔らかな感触が唇に触れて、キスされたと自覚した。一瞬触れただけで離れていったサスケははにかむようにして笑っていた。抱き締めたい衝動を抑えてその唇を追いかける。再び重なった唇は同じように一瞬で離れてしまった。ふふ、と声を出して笑ったサスケはもう身体を前に向けている。まだすぐそばにあるサスケの顔に手を伸ばしたとき、前から声が掛かった。

「なーにやってんだよ!」
「二人だけで内緒話すんなってば! オレも混ぜろ!」

 面食らったオレたちは二人して顔を見合わせて思わず笑い出してしまった。ははは、といまだ笑いがおさまらないサスケだったけれど、そのまま走り出してナルトとキバの間に並んだ。何話してたんだよ、と聞かれているけれど内緒だと言ってきかない。そのサスケを追いかけるようにしてサスケの隣に並んだ。オレの顔を見たサスケはふっと柔らかに微笑みを浮かべた。オレは隣のキバに気づかれないようにそっとサスケの指に手を伸ばす。触れた指先がきゅっと絡まるのが分かって、にやける口元を隠すように腕で顔を覆った。

「オレ一番乗り!」

 そう言ってコンビニの入り口へダッシュしたキバとそれを追いかけて走り出したナルトを見て、触れていた指先に少しだけ力をこめる。触れる面積を大きくして繋いだ手が温かくて、正直勉強なんてしていられないと思う。キバとナルトはオレたちがこうして今手を繋いでいるなんて思いもしないのだろうけれど、それがたまらない優越感をオレに与える。きゅっと握ったあと名残惜しげに離れた指先に一瞬目をやってサスケを見ると耳が赤くなっていた。たまらずサスケを抱き締めてしまった。

「う、わ、シカマル!」

 驚いたように声を上げたサスケだったけれど控えめに掴まれた袖が愛おしくて場所を忘れてそのまま抱き締めた。どうせなら二人で勉強会してーな、耳元で呟くとサスケがぎゅっと抱きついてくる。本当にどうしてくれようか、と思ったところで邪魔が入った。

「そこ! いちゃいちゃしない!」
「はー…これだからバカっぷるは困るってばよ」

 肩を竦めて首を振った二人の姿を見て今の状況を思い出し、いそいそと離れる。悪い、と二人で小さく謝ってナルトとキバに続いてコンビニへと入った。




青春的日常



110620



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