「サスケ!」


 後方から声を掛けられ、聞き間違いだろうかと思いながら振り返った。なぜならその声の主は本来木ノ葉で聞くことがあるはずのない人物だったからだ。しかし、振り返ってみると、それはまさしくその人物でありオレは驚きでぴたりと動きを止めてしまった。
 その声の主――砂隠れの里は風影、砂瀑の我愛羅はオレと目を合わせて心なしか嬉しそうに、もちろん表情の変化は一切無いのだけれど、こちらへ向かってきた。少しばかり近くはないだろうか、そんな距離でやっと立ち止まった我愛羅はほんの少しだけ下からオレを見上げて真剣な顔をしたままオレの両肩を鷲掴んだ。

「お、おお…どうした我愛羅…?」
「話がある」
「なん…それよりお前なんで木ノ葉に…」
「聞け」
「あ、はい」

 我愛羅の手が両肩から離れた。その動きを目で追おうにも我愛羅の視線ががっちりオレを捉えていて下手に視線を外すことも出来そうにない。両腕を滑るようにして動いた我愛羅の手が最終的にオレの両手を包み込むようにして握り、そしてぐいと持ち上げられた。胸の位置でぎゅっと握られた両手と真っ直ぐな視線に、この状況が上手く理解出来ない。混乱しつつ理解に努めようとしていると握られた両手にぐっと力が加わって、我愛羅の口が小さく開いた。

「うちはサスケ、オレと結婚してくれ」
「…は?」

 ………プロポーズ?
 明らかにあり得ないことが起きている気がする。結婚、と言ったのか、こいつは。そもそも意味が分からない。木ノ葉に我愛羅がいることからまず理解出来ないのに、さらに混乱を招くようなセリフを言ってのけた我愛羅に軽い眩暈を感じる。悪い夢でも見ているに違いない。夢なら一刻も早く覚めろ。この理解不能な夢から現実世界に戻りたい。
 しかし交わったままの我愛羅の視線はどう見ても冗談を言っているようには見えない。そしてこれが夢では無いことはさすがに分かっていた。それなら、聞き間違いに違いない、そうに決まっている。

「悪い、ちょっとオレ聞き間違えたみたいだ。なんて?」
「二度も言わせるな…これが最後だぞサスケ、オレと結k」
「あああああ言わなくていい! 聞き間違えてなかったー!」
「返事はどうだ」
「いきなり返事求めるなよ…」
「そうか…」

 そう言って我愛羅は握りしめていたオレの手を離した。半歩後ろに下がった我愛羅は腕を組みふむ、と首をかしげて見せる。視線を窓の外に移して空を見上げた我愛羅を横目に、現状の把握に努めた。一体何があってこんな発言をしたのか、オレには分からない。

「思い立ったが吉日と言うからな」
「何とんでもないこと思い立ってんだよ」
「ずっと考えていた。お前と初めて会ってからというものの、お前のことを考えるとここがきゅう、と痛くなるんだ。病気だと思うほどにな」

 ここ、と胸のあたりで拳を握る。その横顔は真剣そのもので、冗談だと先の発言を切り捨てるのは気が引けた。だとしても、我愛羅の発言は事実上不可能だ。言葉を選んでいるうちに我愛羅の視線が流れるようにこちらへ向く。ふ、と下げられた目尻と緩められた口元になんとも言い難い感情を覚える。無意識の間に胸に手を当てていた。

「……嫌とか嫌じゃないとかじゃなくてだな、そもそもオレたち男同士だから結婚は無理だろ?」

 出来るだけ、明言は避ける。ここにオレ自身の反応を入れてしまえば我愛羅も何らかの反応を示してくるだろう。それは現状をさらにややこしくしてしまうに違いない。客観的な現実というものの提示で、どうか間違いに気づいてくれないだろうか。
 オレの言葉を聞いてしばし考え込むように唸った我愛羅は何かを閃いたように瞳を輝かせた。

「サスケ、オレを誰だと思っているんだ?」
「我愛羅だろ」
「オレは、何だ?」
「……風影?」
「そうだ。オレが、ルールだ。出来ないなら出来るようにすればいい」
「お、横暴……!」

 風影がそんな簡単にルールを変えていいものか。この世界にどれくらいの同性愛者がいるかは知らないけれど、この少子化のご時世に1+1をゼロにしてどうする。そのうち里が無くなるぞ。とは言いはしなかった。目が本気だったからだ。余計な言葉を口にして無駄にやる気を起こさせて、本当にやらかした場合にオレは責任を取れない。

「な、我愛羅。考え直せ?」
「……オレは本気だ」

 再び手を取られて、真っ直ぐ見つめられる。なんだか息の仕方がよく分からない。体温も上がってきた気が、する。どうしたんだオレ。視線を彷徨わせて、一体何と言えばいいのか必死に考える。しかし、一向に働かない頭は我愛羅の言葉を永遠に繰り返し続けるだけだった。

「……オレは木ノ葉を出るつもりはないぜ?」

 する、と出て行った言葉に驚く。今の発言は明らかに結婚に対して前向きなものだった。いつの間に結婚を受け入れることになったんだ。訂正しなければ、そう思って口を開いても言葉が出ない。手を引かれて、抱きとめられる。我愛羅の鼓動を直に感じる。尋常じゃないくらいに速い脈にこちらまでつられてしまいそうに思う。表情からは窺い知ることが出来なかった我愛羅の緊張を直に感じると、顔が熱くなった。抱きしめられながら、顔が見えなくてよかったと心の底から思った。

「……通い婚を検討する」
「いや…しなくて…いいって…」
「オレと結婚は、嫌か?」

 どくどく、と速い鼓動は相変わらずで、それでもきっと表情は変えないままなのだろう。どうしてそこまで真剣になれるのか分からない。普通に考えれば同性に対して結婚云々なんて言ったところで冗談にしか取られない。真面目に取りあってくれないかもしれないのに、わざわざ木ノ葉にまで来て。いきなりプロポーズをして。そんなやつに嫌か、なんて聞かれたら。

「嫌じゃ、ねえよ……」

 そんなの、我愛羅の本気と緊張に、絆されてしまったに違いない。




結婚しよう!



110520




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