身動きが取れなくなって、どれくらい経過しただろうか。時計に目をやる。いつからこうなったんだっけ。それが分からないからどうしようもない。背中の温もりを感じながら、ちらと右肩に目をやると、解かれた髪がさらさらと流れているのが見える。肩口に埋められている顔は表情を窺い知ることは出来ない。一枚の布越しに感じる暖かな吐息がくすぐったい。後ろから抱きしめられて、何をすることも出来ないので今日の晩御飯は何にしようだとか、何時頃に風呂を沸かそうだとか考えていたけれど、そろそろ考え事のネタも尽きてきた。家に招き入れてソファーでくつろぎ始めたと思った直後にシカマルに捕まって、戯れに抱き寄せられたか、と思うと少しも抱きしめる力が弱まる素振りを見せなくなって、今に至る。その間、シカマルは一言も喋らなかった。少し身を捩るだけでもそれを拒むように腕に力をこめるものだから、オレは一切の動きを封じられてしまっていた。

 別に嫌だとは思わない。むしろこれが心地好いくらいだ。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて自然と頬が緩んでしまう。胸がじんわりと温かくなって、意味もなく溜息が出そうになる。こうやって言葉もなく愛を伝えられると、たまらなくなって幸せの溜息をこぼしてしまうということはシカマルが教えてくれたことだった。
 左肩に触れるシカマルの右手にそっと手を伸ばしてゆるゆると撫でた。肩口で顔が少し動いて、額がぐりぐりと押し付けられる。ふ、と感触がなくなったと思うと服が肩を滑るのが分かって、そしてすぐに柔らかなものが素肌に触れた。ちゅう、と可愛らしい音がして口づけられたことを知る。そのまま撫でていると指を絡め取られた。繋がった手から愛おしさが流れ込んできてぐるぐると体内をめぐる。は、と短く息を吐いて、首を捻りシカマルの頭に頬を押し付ける。すると、シカマルが久々に顔を上げた。その動作はやけにゆったりとしていて、先まで顔を埋めていた肩が名残惜しいとでも言っているようだった。
 シカマルが顔を上げたおかげで髪にしか触れていなかった頬に肌の温もりが伝わる。頬と頬がさらさらと触れ合って心地好い。す、とシカマルが顔をこちらに向けたおかげで久しぶりに顔を見ることが出来た。優しさに満ちた瞳から感情がそのまま溢れているように見えて、胸に愛おしさが込み上げる。

「シカマル…好きだ」

 あ、と気付いたときには口にしていた。驚くほど自然に口から出て行った言葉はシカマルの鼓膜を優しく揺らしただろうか。目を細めたシカマルに顔を近づけて、とくとく、段々と速くなる鼓動を感じながらもう一度口を開く。

「好き」

 一度口にしたら後から後から溢れてきて、繋がった手をぎゅう、と握りしめる。泣きたいくらいに満たされている。同じ言葉を繰り返すオレにシカマルがちゅっと唇を押し付けた。言葉は呑み込まれて、真っ直ぐにシカマルの目を見つめた。何かを言おうと一旦開いた唇は何も形作らないままに閉ざされ、再び重なる。触れるだけの優しい口づけに、また優しい溜息がこぼれた。

「オレも好きだ」

 サスケ、と名前を近距離で呼ばれる。吐息交じりに囁かれた愛の言葉にきゅう、と胸の辺りで音がした気がした。シカマルが後ろにいるせいで、身体には無理な体勢を強いているけれど、それも苦にならない。抱きしめる力は弱まるどころか強くなって、繋いだ手も温かさを増す。空いた右手でシカマルの後頭部へ手を伸ばして、顔を引き寄せた。そのまま勢いよく唇同士がぶつかって、かつんと歯からも音がした。不慣れなキスみたいだと目を見合わせて笑って、また唇を寄せる。
 今までのような触れるだけのキスでは物足りなくて、シカマルの唇を食んだ。差し込んだ先で感じる熱に舌がひりひりする。舌が触れ合って、絡め取られて、甘噛みされて、呼吸さえ忘れてしまうくらいに夢中になる。シカマルが少しでも顔を引こうとすると右手でそれを止めて、追いかけるように食らいつく。
 唇が痺れてくるまでキスを繰り返していると、オレを抱きしめていたシカマルの腕がする、と離れて指が頬に触れた。そこからシカマルの指先はオレの唇へと滑っていき、敢え無くキスは中断となった。少し荒くなった息を整え、じっとシカマルの瞳を見つめると、ふわ、と目元が下がって頬にすり寄ってきた。その直後に顔は再び肩に埋められる。素肌を晒したままだった肩に直接息がかかる。そこにシカマルの唇が触れて、今度は痕がつくように口づけられた。

「好きだ……」

 そしてまた愛の言葉を囁かれてくらり、と眩暈を覚えて、オレは本日何度めかになる幸せの溜息をこぼすのだった。




愛しさに殺される



110429



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