たとえばの話をしようか。

彼がふと思いついたように話すから。
私は何を言うでもなく聞いている。
彼の語る言葉は私にとって、とても大きな意味を持つ。

彼と、私。半妖と半妖。銀と銀。人里と森の端。
彼と私の関係を一言で表すならば、なんと言おうか。
幼馴染か、昔からの知り合いか、単なる顔見知りか、それとも。
共に長くを生きてきた。共に多くを見てきた。
時に語り、時に集い、時に離れ、時に――。

私と彼の関係性。私にはいまだ、名前を付けることなど出来ないでいる。
歴史を喰うハクタクといえども、己の歴史にはこんなものなのだと思い知る。
私はいったい、彼になにを求めているのだろう。何を求めれば、いいのだろう。

たとえばの話?なんだい、もう酔ったのか。

私の口は、私の意思に反して言葉を紡ぐ。長い間に身をつけた、一種の処世術の一つである。適当に話を受け流して、その分空いた頭で物事を考えて、歴史をまとめて。半分意識を内側まで持ってくるわけだから、ときどき話が通じなくなることもあるけれど、人は自分の話をすることにばかりかまけるから、少しばかり反応が悪くなったって、誰も気にはしないのだ。

たとえば、はたとえばさ。
そう、たとえば君も僕も半妖でなかったら、とか、僕が君たちと同じように女の子であったなら、とかね。可能性の話なら、いくらでもあるだろう。

噴き出す、笑う。彼の荒唐無稽なたとえ話。
もしも、彼が私たちのような女性であったら?そう、そうだな、もしかしたら。
私たちと一緒になってスペルカードの研究をしたり、いかに綺麗な弾幕を作れるか研鑽したり?
そんな可能性も、あったのだろうか。
彼があの博霊の巫女と一緒になって弾幕ごっこか。いや、もしかしたらあの魔女の娘かもしれないけれど。

なんだい、人の話を聞いていきなり笑い出すとは。そんなに荒唐無稽な話でもないだろう。
いや、いや……ごめんよ、ごめん。失礼、したな。けれどそれはな、霖之助。想像してもみろ。お前が女のように振舞っているのか、と思ったら、な。
……いつも思っていたのだけど、慧音は笑い上戸のケがあるね。飲み過ぎはよくないよ。
なんだ、藪から棒に。私はそこまで飲んだりはしていらいぞ、……私の思う限りでは。
いいや、誰が何と言おうとそうだね。まったく、二人で飲むといつもこうだ。稗田の娘さんがいる時の方がまだ意識も話もはっきりしているのに、どうしてなんだい?
阿求のいるとき?なんだそれは、私は加減などこれっぽちもしていない。彼女がいる時はそう、彼女の話に耳を傾けているから、それであまり飲まないだけだ。
そういうことにしておこう。ほら、机に突っ伏していないで、眠るなら布団の上にするといい。
いいや、私はもっとのめるぞ。ほら、お前も飲むといい、今宵の酒はとても美味なのだから。

私が加減をしてるというなら、きっとそれはお前のせいだよ。
心の中でだけ言えること。心の中でしか言えないこと。
誰よりも自分をさらけ出せるお前だから、だから私は無理をしない。
すべて自然にあるがままに、心のままに動けるんだ。
お前がそこにいるから。決して異変に関わらない、安全圏にいてくれるから。
先ほどの話の続きをしようか。もしお前が、女だったら。
きっと私はお前にだけは、異変を解決させようとしないだろう。お前が無事でいてくれなければ、私はどうしていいか分からない。
幼い頃から共にいるお前。森近霖之助。女のお前もきっとどこか抜けてる奴なんだ。銀の髪は長く伸びて。道具を扱うその手は白く、指は細く。
可能性の世界でお前は、どんな声で話すのか。どんな顔で笑うのか。
でも一つだけ、確信めいた思いがある。
その世界でもきっとお前は半妖で、私もきっとハクタクで、二人は変わらず付き合っている。一人は人里。一人は森。人とも妖怪とも付き合うお前の所に、酒を持って押しかけるのだ。
共に長くを見て。共に多くを聞いて、知って。

時に寄り添い時に離れそして時に―――出来るなら、ずっと共に。
いたいと思うのは、私の我儘だろうか。
長すぎる生を生きる内に、そこにいるのが当たり前になっていた彼を失いたくないと思う私の我儘だろうか。
それならそれで構わない。
私たちに永遠はない。いつかは終わる道だ。それまでは、どうか、どうか共に、傍にいさせてほしいだけ。彼の歴史を見て、聞いて、知っていたいだけ。

なあ、霖之助。話をしてやろうか。
そう、たとえば、たとえばの、話さ―――。

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