*紅魔主従過去設定捏造してます


月が出ていた。

赤い月だ。
見る者全てを狂気に陥れるような、赤い月。
魑魅魍魎が騒ぎ出すそんな紅い月が、遥かなる英国の地を赤く照らし出していた。


ここに、一つの屋敷がある。紅いその屋敷を、地元の人間は悪魔の館だと言って恐れていた。あの館の住人は人ではない、人を喰らう吸血鬼なのだ、と。

今その屋敷の一室にも、赤い月の光が差し込んでいた。暗い室内には二人分の人影、一つは椅子に座り、もう一つはその人影に跪いている。

「あぁ、今日の月はなんて赤いのかしら、とても良い気分だわ」

椅子に座った人影が口を開く。
その声は高く、少女のもののようである。
それに応える声もまた少女のものだった。

「楽しそうで何よりです、お嬢様」
「あら咲夜、貴女はそう思わないの?」

クスクスと笑う声、お嬢様と呼ばれた少女は上機嫌のようだった。対して咲夜と呼ばれた少女の声は硬い。

「……いえ、私はお嬢様が楽しいと思われているならば、それで満足でございます」
「ふふふ、そうね、そうよね。だって貴女は――私の僕、私の狗だもの」
「はい、お嬢様」

跪く少女を月が照らす。銀の髪、青い瞳のメイド服を来た少女は己が主に頭を垂れる。

椅子に座る少女の目は室内だというのに赤く煌めている。まるで魔性のものようなそれを歪ませ少女――吸血鬼、紅き魔の館の主、レミリア・スカーレットは笑う。

「じゃあ咲夜?私が今何を望むか、分かってるわね?」
「はい」
「今宵の素敵な紅き夜に紛れ込んだ無粋なお客様には、お帰り願いましょう」
「…お嬢様の、仰せのままに」

窓の外には紅き月の照らす大地。そこから見える範囲に、蠢く小さな影があった。
月に照らされキラキラとたまに光るのは、隠し持ったものに反射しているのだろう。

「ご命令を、お嬢様」
「いつも通りよ、咲夜――見敵必殺、サーチアンドデストロイ。情け容赦なく、一欠片の慈悲もなく、この紅き夜に相応しい働きを、期待しているわ」

レミリアは子供らしからぬ妖艶さと冷酷さを滲ませた瞳で従者に笑いかける。

「畏まりました。この十六夜咲夜、全てはお嬢様とスカーレット家の為に――」

ぺこりと一礼した次の瞬間、部屋の中から咲夜はその姿を消した。
しかし、レミリアは驚かない。彼女の能力によるものだと分かっているからだ。

耳を澄ます。
夜の静寂の中、僅かに聞こえてくる銃声と金属音。いくつかの足音は侵入者のものだろう、咲夜は足音を立てることはない。従者としてのマナーだからだ。

「あら、あの子も楽しそう」

屋敷の奥から笑い声が聞こえてくる。反響し屋敷中に響きわたるその声からは、喜の感情ばかりが伝わってきた。
きっと彼女も今日の紅い夜が楽しいのかもしれない。だから笑っているのだ。

「―ああ、こんなに月が紅いんだもの、今日は良い日になりそうね」


紅い月に照らされて幼き吸血鬼の少女は微笑んだ。血よりも赤い、紅茶を片手に。

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