私の妹は、狂っている。

言い方が悪かっただろうか。
――正確には、心がない。意志がない。
私と妹は、サトリと呼ばれる妖怪だ。
サトリとはその名前通り、相手の心を覚る妖怪。人も妖怪も関係無しに、一方的に相手の心を覗くのだ。
そんな力を持った者を、周りがどう思うかなんていうことは、今は割愛させてもらおう。今話しているのは私の妹の話であって、私たちのこれまでではないのだから。


この私、古明地さとりの愛すべき妹、古明地こいしの話をしよう。
彼女、古明地こいしには心がない。いや、あった、というべきか。
なくしたのか、自分で閉じたのかはわからないけれど、ある日からあの子の眼は閉じてしまった。サトリにとってその「眼」はいうなればサトリの能力そのもので、あの眼があるからこそ私たちは人の心を覗いてしまう。

眼を閉じた妹は、誰かの心を覗くことが出来なくなったかわりに、誰の意識からも消えてしまった。無意識になってしまった、らしい。妹の心はもう私にもわからない。彼女の心からは何も読めないから。真っ白な無意識の固まりになってしまったから。
私にできるのは妹がそこにいると認識することだけで、それだってあの子は気がつけば、ふらふらと何処かをさ迷っている。

「ねえ、こいし。今日は何をしたの?」
「今日?今日はねー、かくれんぼしたのかな?わたし、いっぱい隠れていっぱい見つけたの。でも、みんなすぐに見つかっちゃうんだもの、つまんない。……そうだ、お姉ちゃんもかくれんぼしようよ。きっと楽しいよ!」
「そうね、とても楽しそう」
「そう、楽し……楽しい?何が楽しいの、お姉ちゃん。あれ?今わたし何のお話ししてたのかな?んん、んー、わかんないからいーや。あ、こないだね、里の子供と遊んだの。かわいい女の子でね、」

彼女の話は支離滅裂で一切の繋がりはなく、ただ思いついたことを話すだけ。だからすぐに話題を忘れてしまう。いや、そもそも会話にすらなっていない。
・・・妹は誰にも認識されないわけではない。幼い、まだ何物にも染まっていない意識を持った小さな子供。彼らにはなぜか、無意識の領域にいる妹の存在がわかるらしい。ずっとという訳でなく、成長するにつれて妹を認識出来なくなるのだが。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「なぁに?」
「明日はお姉ちゃんも空も燐も一緒に遊びにいこうよ。お友だちいっぱいできるし、皆と遊ぶの楽しいのよ?」
「そう」
「うん!」

ニコニコと邪気のない笑顔で笑う妹に微笑んで、聞いてみた。

「こいし」
「なぁに?お姉ちゃん」
「あなた、この世界は好きかしら?」
「どうかなぁ?好きなのかな、嫌いなのかな。別に世界なんてどうでもいいからよく分からないやぁ」
お姉ちゃんと空と燐がいて、皆と遊べるならそれだけで幸せだもの。

ふわふわと世界から浮いている妹は、今日も一人、夢の中で生きている。
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