山も川も人も妖怪も妖精も、みんな寒さに震える冬の日。

チルノは今日も元気だった。
もともと氷の妖精であり、本人もその力を存分に発揮した弾幕を使うチルノにとっては、ここ最近の天候はとても気持ちのいいものである。
そんな彼女は今日も今日とてイタズラを考えながら森を歩いていた。

「ふっふっふっふーん」

鼻歌まじりに手元で氷を造り出す。キラキラと輝く細かい粒子は、太陽の光を反射してまぶしいくらいだ。
チルノはそれを目一杯に集めてばらまく。
バラバラと落ちていく氷の結晶が太陽の光に当たり、幻想的な光景を造り出す。
――ダイアモンドダスト。弾幕に負けずとも劣らない、自然界の造り出した神秘。
そしてチルノはその景色の向こうに、人影を見つけた。キラキラと雪の中で輝く長い銀の髪に、青い瞳。白い衣は見慣れないもので、最近この幻想郷に来た奴なんだろう、物珍しげに辺りを見ている。
「あ」
「む?」
視線があった。その余所者は、どうしてかこっちを見ている。しかも、物凄くキラキラした目で。
「な、なによっ、アタイになんの用!?」
弾幕勝負をしかけてくるなら望むところだと、符を出しかけたところで相手が口を開いた。
「お主!もしや、『冬将軍』という奴であろう!」
「はぁっ!?」
余所者は、とんでもない勘違い女だった。

「む?違っていたかの?お主のように冷気を操る者のことだと、青娥殿から聞いていたのだが」
「ちっがーーう!アタイは氷の妖精よ!その『ふゆしょーぐん』なんかじゃないわ」
「なんと!これはすまない、氷の妖精よ。復活したばかりでな、この世のことがまだわからんのだ」
「はあ?知らないわよそんなの!それにアタイはチルノっていうんだから」
「チルノ殿だな、我は物部、物部布都という。以後よろしく頼むぞ!……で、本当に冬将軍殿ではないのか?」
「話を聞けーー!」
余所者は話を聞かない奴でもあった。


それからしばらく、チルノは布都と話していた。どうやら最近復活したというのは本当らしく、チルノでさえ知っていることを布都は知らなかった。

「ふーん、あんたとその太子さま?ととじこってのの三人で復活したんだ」
「うむ。青娥殿の素晴らしい秘術でな。屠自古とも昔は色々とあったのだが、今では良き同士ぞ!」
「きのーの敵はきょーの友だちってやつね!たしかにさいきょーのアタイにも、慕ってくれる子分たちならいるわ!」
「最強?最強と申したか、チルノ殿」
「いったわ。それがどうかした?」
「最強とは、最も強く気高き者。つまりは太子様のようなお方のこと!失礼ながらお主のことを最強と認めるわけにはいかぬな」
「なっ……なによそれ!アタイがさいきょーなのは、絶対なんだから!」
「ならば太子様が最強であられるのは絶対の絶対ぞ!」
「ならアタイは絶対の絶対のぜっ―――、あー、もーっ、めんどくさいっ!!これで勝負よ勝負っっ!」
そういってチルノが先ほど出しかけた符を取り出すと、布都もその意味がわかったのか、自らの符を取り出した。
「ほぅ………我に弾幕で挑もうとは、後悔いたすなよ、チルノ殿」
「ふんっ、あとで泣いても知らないんだからね!覚悟しな――、」



「やめないか馬鹿者っ!!」

パコーン、とやたらいい音が、静かな森の中に良く響いた。
「だれよ!いいトコだった…の、に…」
自分の頭をはたいた邪魔者に文句を言おうと、チルノが勢いよく振り向いたその先にいたのは、
「ほほぅ……?授業にも来ないで何をやっているのかと思えば、こんな所で弾幕勝負か。さぞやお楽しみだったようだな」
チルノ含む妖精たちに寺子屋を開いている半妖…上白沢慧音だった。

「け、けーね…、おこって、る?」
「ははは、面白いことをいうなあ。勝手に寺子屋をサボってこんな所をうろついて、何かあったんじゃないかと大妖精みたいな良い子を心配させてその挙げ句、ただ弾幕ごっこをしようとしていたチルノを、私が怒るわけないじゃないか、なぁチルノ?」

怒っている。それはもう盛大に怒っている。満月でもないのに角が見えるくらいに。突然の乱入者に驚いているのは布都も同じようで、符を片手に立ち尽くしている。

「あ、あの………」
「ああ、申し訳ない。この子と遊んでいたんだろう?しかし、この子はこれから寺子屋に行かねばならんのでな。君も良ければ来るかい?」
「い、いや……遠慮させていただこう」
「そうか。まあ、また機会があれば聞きに来るといい。――では、行こうか」
「や、ちょっ、待って待って引っ張らないでぇぇぇぇ!!!」

辺りにチルノの声が木霊しながら、二人は森を去っていった。残された布都はしばらくの間呆けていたが、ハッと気付くと、自分も来た道を戻っていったのであった。

――氷の妖精と復活したばかりの屍解仙。
彼女たち二人の出会いは、こうしてなされたのだった。




後日。

「屠自古、屠自古!」
「どうかしたの、布都」
「我はこの間、青娥殿の仰っていた『冬将軍』とやらと出会ったぞ!中々に気丈な小さき女子であった!」
「…………はぃ?」


やっぱり勘違いしたままの、物部布都なのであったとさ。


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