空ハ蒼ク花ハ白ク咲ク

「おぉ……大神アマテラス様、よくぞいらっしゃいました。このサクヤ、アマテラス様にお会いでき、嬉しく思います」
「よぉ、サクヤの姉ちゃん!相変わらずいいカラダしてんなぁ!ブフフフフ!」

貴方は相変わらずのようですねと、アマテラスの上で跳び跳ねるイッスンを見てサクヤは思う。
ナカツクニを縦横無尽に駆け回り、人びとに幸いをもたらすアマテラス。その活躍を絵にして広く知らせるのが役目であるにもかかわらずこの玉虫は、やれ美人画だなんだのと人の絵を書きたがる。

――もう少し、自分の役割に責任を持っていただきたいものですが………

はぁ、とため息をつくサクヤを尻目に、イッスンは寝転がったアマテラスを起こそうと騒いでいる。

「オイアマ公お前ェ、せっかく神木村まで来ておいて、なンで寝てるンでィ!ここに来た目的を忘れンなッてェ!」
「クゥーーン?ワフッ」
「目的、ですか?何か私にご用でも」
「ワゥ!!」
「え、あ、あの、アマテラス様?」
アマテラスは何故かサクヤを引っ張って、鳥居の外へと連れ出そうとしている。
アマテラスの上にいるイッスンもそれを止めずにいるため、二人とも共犯のようだ。
そして連れてこられたのは神木村の中。いつも村人たちが宴会やお祭りをしているところで、かのヤマタノオロチ討伐の折には村の外からも人が来ていた。

「ホラホラ行った行った!さっさとしねェと、始まっちまうぜェ!」
「だから一体なにをしているので………、まぁ、これは、」

そこではまさに、宴の最中。
村人も村人以外も、人も人でない者も入り交じり、あちらを見れば騒いだり踊ったり、こちらを見れば飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎ。サクヤから見てもそれぞれ自分なりに宴を楽しんでいるようだった。

「見ての通り、花見祭りでィ!どうだいこの人の数はよォ?あっちこっち駆けずり回って集めたかいがあるッてモンだぜェ!」
「まァ、ではこの人間たちはみなアマテラス様がお集めになられたのですか」
「ワゥ!」
誉められたと思ったのだろう、アマテラスは自慢気な顔をしている。

「しかし、何故この村に集めたのです?桜を見るならば、ここよりも都の方がよろしいのではありませんか?」
「ウー…ワウ!」
「ハハハ、それは違うよ、レディ。花見ができればそれでいいってワケじゃない。アマテラス君にとっては、神木村以外の場所はノーセンキューってコトさ!」

空からヒラヒラと現れたのは、ウシワカだった。先ほどまでは笛を吹いていたのだが、サクヤと共にいるアマテラスを見かけたので降りてきたのだ。

「はて…、それは一体どういう意味でしょうか……?」
「なんだ、ゴムマリくんから聞かされていないのかい?アマテラスくんたちがこの村に人を集めたのは…」
「集めたのは……?」
「そう、それは…………………………ユーの為だったのさ!」
「!」
「ユーはこの村、言ってしまえばあの塞の芽から離れることは出来ないだろう?それを見かねたアマテラスくんとゴムマリくんが、せめて村の外から人を連れてきて、にぎやかにしようと思ったんだろうね。沢山の人に声をかけたんだよ、お花見をしないかってね」
「なんと、私の為にそこまで…?」
「ま、詳しくは本人に聞いたら早いと思うけどね!それじゃあミーは、そろそろ都に戻るよ。アマテラスくんはぜひとも、また遊びに来てくれたまえよ、シーユーアゲイン!」

そう言ってウシワカは、都の方へと飛びさっていった。

「ッたくよォ、最後に余計なこと言いやがッて、やっぱりあいつはいけ好かねェ野郎だナァ!アマ公、ぜーッたいに行くんじゃねえぞ!!」
「ワゥ?アオンッ!」
「ひゃああ!?なにすンでィ!」
「ふふふ……」
「ネェちゃんまで笑いやがッてェ!」

怒るイッスンだったが、サクヤは笑いが止まらなかった。いつも捻くれた物言いしかしないイッスンが自分の為にこのようなことをしてくれた。
それがなんだか可笑しくて嬉しくて、だからサクヤは笑っているのだ。

「うふふふふふ…」
笑っているサクヤの下に、誰かが近付いてきた。サクヤも見覚えのある、小さな少女だ。
「ねぇ、綺麗なおねえちゃん!」
「あら、まあ。私が見えているのですね、小さな人の子よ。どうしたのですか?」
「おねえちゃん、すごくすごーく、お花の女神さまみたいに綺麗だね!」
「ふふ、ありがとうございます。貴女もとても愛らしいですよ」
「えへへ、ほめられちゃった」
「ツバキ、どうかしたの?」
「あ、お姉ちゃん!あのね、今すっごく綺麗な女の人が………あれ?いない!」
「またヘンなものでも見たの?……キャアッ!」
「ん…わぁ!きれー!」
「いきなり風が吹いて、桜が…ま、キレイねェ」

――私からの贈り物です、人の子よ

「!お姉ちゃん、今声がしたよ?」
「ま、またそンなこと言って!」
「だってホントに、贈り物だって言ってたモン!ね、ワンちゃん」
「ワン!」


――その日、神木村では一日中、どこからか楽しげな女性の声がしていたという。
だが誰も声の主を見なかったために、それはひょっとしてお祭り騒ぎにつられてやって来た、天女の声だったのではないかと言われているらしい。

真相は、神のみぞ知る。




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