踏みしめたのは、真っ赤な道

――その道は、赤く染まっていた。
荒涼とした大地に立つのは、二人の男女。
一人は刀を腰に下げ、もう一人は地面に槍を突き立てて、その身を支えている。
二人とも息は荒く、戦いの名残か、揃いの装束には返り血が飛んでいた。
刀を下げた男のほうが、口を開く。
「……この辺りの鬼は、あらかた倒したようだな。大丈夫か、姉さん」
その問いかけに女は、強気な笑みを見せて答える。
「当たり前。アタシを誰だと思ってるのよ。少なくとも弟の前じゃァ、倒れるなんてできるワケないでしょ」
槍を担ぎ、顔にこびりついた血を拭う。きっ、と爛々と輝く黄色の瞳は前を見据え、次の戦うべき相手を探していた。と、その瞳がすっと細められる。
「はんっ、高が雑魚ごときが、アタシ達を止められるとでも思ってんのかしらね」
「まだ残っていたのか……。これで終わりにして、早く家に帰りたいものだが」
「そうね。あの子も待ってることだし、アタシもそろそろ、イツ花のご飯食べたくなってきたし……何よ、その目は」
「いや、この状況で飯の話とか…姉さんは相変わらずだな、と。…あいたっ」
槍の柄で小突かれた頭を擦りながら、男は隣に立つ自らの姉を見る。
「囲まれたくらいで何言ってんの。囲まれたなら囲まれたで、全部ぶちのめせばいいだけでしょーが」
自信満々な態度で背筋を伸ばして立つ姉は、今は亡き彼らの父に似た横顔で敵と対峙している。彼女にとって家族は守るものであり、共に戦うもの。だから絶対に、鬼に屈しはしない。家族がいれば、負けはしない。
―――絶対に。
男は腰の刀を構え直す。家に残してきた家族たちの為に、隣で戦う彼女の為に、死なない為に、剣を振るう。
閃く剣は鬼たちの皮を裂き、骨を断つ。振るわれる槍がその骨を貫き、打ち砕く。すべては一瞬の内に始まり、一瞬の内に終わる。鬼たちの血と自らの血にまみれ、戦闘の跡が色濃く残る道を行く二人を、暮れ行く夕陽は赤く照らしだしていた。

彼らの行く、その道は。
それはまるで、修羅の道。
命尽き、体果てるその時まで、彼らの戦いは続く。鬼と戦う、ただそれだけの人生。
だけど、きっと、それでも彼らは、生きている。
赤く染まった道の上。
彼らは二人、わらいあう。


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