ライラさんと その1.5

#ソーダアイスキャンディー

 一度事務所へ帰る前に、公園にあったアイスの自販機へ向かう。流石にいい加減限界だったのだ。暑さと、喉の渇きの話だ。

 自販機で飲料水のペットボトルでも買おうとも思ったが、視線の端に見えたあの自販機の棒アイスの味がなんとなく懐かしく思えて、自然とそちらへ足が向いていた。
 ライラにも好きな味を奢ってあげようと声を掛け、スーツの尻ポケットから小銭入れを抜く。学生時代はよく何を食べるか散々に迷ったものだと懐かしみながら自販機へ小銭を投入してから、私はライラの方を見た。

 ……思わず、苦笑してしまう。小さな子供のように海色の目をきらきらに、サイダーのように輝かせて、ライラは自販機のアイスの絵を食い入るように見つめていた。
 その視線が熱烈すぎてアイスが溶けそうだと思ったのは、自分の中だけに収めておこう。

「おぉ……いいえ、いいですか、プロデューサー殿? まだアイスはわたくし、ぜいたくでございます、お家賃のための節約です、節約……」

 ぶつぶつと呟いているがその目は実に正直だ。今日のお祝い、これからアイドルを頑張る為のご褒美だと言ってようやく、ライラは私の方を見てくれた。

「では、では……あの、青いアイスを、お願いしますです」

 指差す上から二段目、ソーダ味のアイスキャンディー。そうかそうかと笑いながら私も同じ味に決めたのは、彼女の笑顔のせいかもしれない。

 公園の木のどこかではまだ元気に蝉が鳴いている。ミンミンとうるさいくらいの蝉の声を耳に齧るソーダアイスの冷たさは私を遠い夏へと引き戻す。
 隣で同じく、しかし私よりよっぽど美味しそうにアイスを頬張るライラの目に感じた懐かしさは、そう、ラムネの瓶から取り出したあのビー玉の蒼色。

 夏の終わり、秋の初め。
 幸せそうにアイスを食べるライラの笑顔を私はもっと見たいと思った。
 それが私と彼女の、一番最初の思い出だ。

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