ぱしゃーん、ぱしゃーん。

波が揺れて、魚が跳ねる。

ぱしゃーん、ぱしゃーん。

水面が揺れて、波紋が広がる。

ぱしゃーん、ぱしゃーん。

人魚が一匹、顔を出す。

湖の畔、木陰の下に。人狼一匹、隠れてる。手紙を持って、隠れてる。

人魚が喋る。一人言ではない、確実に、誰かに向けた言葉を話す。

曰く、今日はまれにみる暑さであるとか、共通の知り合いである飛頭蛮の近況であるとか、陸の上の様子であるとか。

人狼は何も答えない。
ただ、彼女の隠れているであろう草むらが、相槌を打つように二度三度と揺れるだけである。

人魚はそれで満足なのか、笑ったり、心配そうにしたり、なんだか意志疎通が出来ている辺り、慣れたものなのだろう。

けど。
人魚はぽつり、一雫の言葉を溢す。
遊びに来てねと言ったのに、まだ大事なお友だち、訪ねに来てはくれないの。
まだかまだかと、待っているのに。

人狼はびっくり震えて、ずっと大事そうに抱えていた手紙に何度も触れる。
そこに書かれているのは、何より大事な友達からの誘いの言葉。遊びに来てねと、かわいい文字で書かれた言葉。

たった一言、たった一歩。
口に出せれば、足を踏み出せれば。
人魚の文字をなぞってなぞって三度目に、ようやく人狼は覚悟を決めた。

緊張でひっくり返って裏返った、少女の声。魚が跳ねる。湖、水面に波紋が広がる。人魚も、人狼も、二人そろって笑い声。


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