ヒソカからの新規のお客さんの紹介を境に半ニート生活を一時休業し、情報屋の仕事を復活させた私はとにかく毎日が多忙だった。顧客数が多いとは言えない情報屋だが早さと情報の正確さが売りのお陰か仕事の数は物凄く多い。ついでに言うと仕事の中には正直情報屋に頼むことじゃないだろこれ、みたいなのも多数存在していて正直しんどい。どうして情報屋にそんな依頼来るんだよ、と思うかもしれないがその昔(って程でも無いけど)家出したての若かりし頃に何をしていいかわからなかった私は盗み、殺し、運び、ボディーガード…等とにかく何でもやった。二転三転した結果今はもう情報屋として安定したがその時の名残で未だに殺しやら運びやらの依頼が結構来る。
んなもん引き受けなきゃいいだろ、と思うかもしれないがぶっちゃけ普通に情報屋としての仕事より楽で報酬も良いものもあるから無下にすることもできない。最早情報屋というより便利屋と化しつつある。一昨日は徹夜でボディーガードの仕事したし、昨日なんかちょっと表立って言えない様なものを殆ど不眠不休で変な輩を片付けつつ運んで来たしそして今日は真面目に情報屋だしでさ、

「最近の私、働きすぎな気がする」
「お前の場合働き過ぎと言うより休まな過ぎるという方が適切だろう」
「五月蝿い、自覚してる」

本日のお仕事。お得意様の大企業のお坊ちゃんとの取り引きが終わり、続いて幻影旅団、通称「蜘蛛」の団長との取り引きである。クロロとの付き合いは仕事の都合で色々とあって早いこと約二年。ギブアンドテイクな関係である。今回はとある美術館にある美術品保管場所である金庫のパスワードと警備員の配置とその他諸々の情報の取り引きだ。
まぁ、とっくにクロロとの取り引きは終わっており、暇だしお昼時だしで近くにあったレストランでついでに食事を摂ることになった。因みに彼の現在の格好はオールバックに裸コートの団長モードではなく、髪を下ろした好青年モードである。裸コートだったら食事どころか一緒に歩くのもお断りしてる。

「随分と機嫌が悪い様だが何かあったのか?」
「ここ二日くらい殆ど寝てない。それとさっき会ってきたお客さんが新規の金蔓…じゃなかった、お客さんを紹介してくれたんだけどとんでもないエロ親父でさ、会って早々に『今晩一発どう?』みたいなこと言ってきたからムカついてるの」
「お前のことだから拳の一つでも叩き込んで来たんだろう?」
「残念。正解は『テーブルにあった灰皿を顔面にめり込ませた』でした」

私は娼婦じゃねーっつの、と吐き捨てる様に言えばクロロは特に何も言わず黙々と食事を続けていた。私は溜め息を吐いてフォークでトマトソースの掛かったパスタをフォークでくるくると巻いて口に入れた。

「それにしてもまたいきなり復帰したな。オレの予想だとあと一年くらいは出てこないと思ってたんだが」
「出てこない、って…人を引き隠りみたいに言わないでくれない?それに旅団の仕事は受けてたでしょ」

パスタを食べつつそう言えばクロロは特に何も言わずグラスに入った水に口付ける。半ニート生活の間、他の仕事は全く引き受けなかったが旅団からの仕事は普通に受けてた。理由は下手に反感でも買って、旅団を敵に回したくないからである。旅団に依頼を断っただけで攻撃してくる様な小物はいないだろうがまぁ、念には念を、というやつだ。私には旅団を敵に回して生き残れる様な実力と運など無い。

「復帰したのに特に意味は無いよ。この間ヒソカに新しいお客さん紹介して貰ったからいい加減働こうかなー、なんて思っただけ」
「あいつが人を紹介するなんて珍しいな。どんな奴だったんだ?」
「うーん…名前とか個人情報は伏せるけど…男の人なのに凄い美人な人だったよ。でも何か変な人だった。いきなり名刺握り潰されたし。流石ヒソカの紹介って感じかな。寧ろヒソカに知り合いがいたのが驚きだけど」
「ヒソカの知り合いで美人な男なら一人心辺りがあるな」
「多分クロロが思い浮かべてるその人であってると思うけど一応訊くよ、どんな人?」
「黒髪で無表情な暗殺者だ」
「ゾルディック家の御長男?」
「そうだ」

クロロがそう言った途端、何か笑ってしまった。交友関係狭いな、本当に。
雑談をしている間に食べ終わって空になったパスタとピザの皿を店員が下げに来た。ついでだからデザートに私がガトーショコラと紅茶を頼めばクロロも釣られる様にしてティラミスと珈琲を注文する。程無くして運ばれて来たデザートに口を付けながら雑談を再開した。

「それにしてもお前がイルミと知り合いじゃなかったことに驚いたがな。ヒソカとの付き合いは長いんだろ?」
「あいつの交友関係なんて知らないし。それに付き合いが長いんじゃないの、腐れ縁なだけ。勝手にヒソカと私を仲良しにしないでくれない?」
「仲良くないのか?」
「あの変態と仲良くするくらいなら交友関係一切排除して山に引き隠って仙人みたいな生活する方がマシ」

嫌悪感いっぱいの表情を浮かべてそう言った。因みにヒソカとの付き合いは意外と長い。約五年の付き合いだ。昔私がとある金持ちのボディーガードをやっていた時のことだ、ヒソカは私の雇い主の家を襲撃した。どうやら彼の目的は私と同じく雇われていたボディーガードの男(かなりの手練れ)だったのだが、遊んだ(殺した)はいいが予想以上に物足りなかったらしく近くにいた私にちょっかいを出してきた。気持ち悪い笑みをしたピエロ男がトランプ片手に襲い掛かって来るもんだから勿論ながら私は全力抵抗、「ピエロVS私」の命掛けのバトルになった。結果は私の逃げるが勝ち。そこから絡まれては逃げるを繰り返し、ずるずると引き摺って彼と私の関係は現在のギブアンドテイクの金蔓になった。

「オレは最初にサイカとヒソカを並んで見た時恋人なのかと思ったよ」
「それはね、クロロ。貴方にとってはヒソカと親友に勘違いされるレベルで嫌な勘違いだよ」
「それは……嫌過ぎる」
「だから二度とそんなこと言わないでね。次言ったらその豆電球みたいな耳飾りを耳ごと引き千切るからね」

あんなのと恋人にされてたまるか。ヒソカに恋愛感情は一切無い。彼は普段はあんな格好だが化粧落として大人しくしていれば誰もが振り向くくらいの美青年だ。だがときめきの欠片すら感じたことがない。寧ろあれとくっつくくらいなら舌を噛み切る道を選ぶくらい嫌だ。最早あれは私の中では人間に見えてるかすら怪しい生き物である。そんなのをどうやって恋愛対象として見ろと。
ついでに言うとクロロも恋愛対象外である。全く干渉してこないし一緒にいて楽なのだが何か違う。知り合い程度に仲良くするのなら全然構わないのだが恋人にするのは絶対に嫌だ。当たり前だが向こうも全く同じことを思っているので私達の関係は下手なことさえやらなければ基本的に平和なのである。
甘ったるいガトーショコラを食べ終わり、口直しに紅茶をのんびりと啜った。時計代わりに携帯で時間を確認すればそろそろ次の仕事の時間だということに気付く。

「もうすぐ仕事だから行くね」

紅茶を飲み干してソーサーの上に置く。それから財布を取り出し自分が食べた分の代金を伝票と一緒にテーブルに置いた。
支払いは宜しくね、とクロロに一言告げてレストランを出た。あと残ってる仕事はなんだっけ?この後に情報の取り引き、明日は殺しと運び、明後日は殺しと情報の取り引き…あ、来週にはイルミと会う約束か。何の仕事かは知らないが十中八九情報屋の仕事だろう。てか本業それだし。
忙しいなー、なんて思いつつ溜め息を吐く。どうせあと半年もしない内に実家に帰るんだから働かなくたっていいのに。馬鹿だな、私。

20120319