戦国時代にタイムスリップしてしまった俺は、1人の侍の命を救った
 ただのたまたま、偶然に合戦場に現れた俺は命を狙われていた侍を結果的に救ってしまった
 救ってしまったっていうのは俺が救いたくなかった様に聞こえるが、それは間違いである
 俺はその侍を救えて良かったと結果的には思える
 その偶然がこの時代の、この侍の運命を大きく変えることになるなんて思いもしなかったが……

 そしてその侍がその戦で勝利を収めたのは言わずもがなである
 俺はその時代では妙ちきりんな格好をしていた事から、未来から来たと侍の仕えている城の殿に言うとあっさり信じてもらえた
 その上、元の時代に帰れるまでの衣食住を保証してくれると云われたので、素直に甘えることにする
 俺が命を救った侍の家でお世話になることになった、侍も俺を快く養ってくれた
 侍に嫁はなく、好いている女性はいるらしい
 ただその女性に想いを伝えることは出来ずにいるらしい、所謂奥手な人間だったのだ
 余計なお世話、お節介になるとは解っていたが、俺は侍に想いを伝えることを進めた
 侍は、出来ぬと顔を赤くして呟いただけだった……
 それからしばらくしてまた戦は起こった、俺を養ってくれている侍も例外ではなく駆り出されていった
 戦は勝利に終わったらしく、帰ってきた侍の顔はどこか晴れやかだった


 俺はこの時代に来て良いことをしたのだと思っていた、考えていた
 この時代の救世主なのではないかとも思うほどでもあった、けれどそんなのは俺の妄想に過ぎないということを痛いほどに思いさらされることになる
 最終的にタイムパトロールという職業の奴がを殺してしまうまでは、


 俺が命を救った侍は長年想っていた女性を娶ることになった
 それが決まった日の夜、俺は侍と男と男の約束をすることとなる
 俺は無事に元の時代に帰れたら進路をハッキリとさせること、その代わり侍は妻となる女性を悲しませない、という口約束
 俺は高校最後の夏をこの時代で過ごした、本来ならば就職にしろ進学にしろハッキリとした進路にむけて何らかの行動をしなければいけないのだが
 そのことをぽつりと侍に話したならば侍はお前はどうしたいのだと問われた
 俺は自分の考えを全て話した、担任にだってこんなに話したことはない
 俺は親に就職しろと言われているが大学に進学したいと述べた、大学なんて無い時代の人間に、どこの大学でどんなことを学びたいと、全て話した
 侍は静かに俺の話を聞いていてくれた、全て話し終えると数回頷いて、ならばそうすればいいだろう、そう言ったのだ
 親に言う勇気なんてなかったけど侍の言葉に目が覚めた気がした、誰にでも口にできる簡単な言葉だったけど
 この侍は俺の肩の荷を全て降ろしてくれた、それもいとも簡単に、俺の胸の中はすっきりとしていた
 全てを話した俺と全てを聞いて助言をしてくれた侍に、侍の家臣が茶を出してくれた

 その茶を飲もうと手を伸ばした時、時間が止まった
 先の話にも出ていたタイムパトロールという奴が現れたのだ
 この男によると俺は時間の歪みのど真ん中にいたらしく、この時代まで飛ばされたらしい、詳しい話はよくわからなかったが俺を迎えに来たと言った
 ようやく元の時代に帰れると思った矢先に事件は起こった
 侍が口を付ける予定の湯呑みに、近未来的な服装の男は薬を入れたのだ
 薬の名前や成分なんて聞かなくてもそれが良いものではないの解っている
「何で……!」
 侍はこれから自分が飲むお茶に何かが入ってるなんて知らない、疑いもせず湯呑みに口を付けるだろう
 そうしたら確実に侍は死ぬ、長年想っていた女性を娶る前にその人生に幕を下ろすこととなる
 俺は憤慨した、なぜタイムパトロールが侍を殺すのだと
「これも私の任務なのです」
 苦虫を噛み潰したかのような表情で答えるタイムパトロール
 その続きを聞いて自分で自分を殺したくなった、自分はメシアだとほざいていた自分を殴りたくなったのだ

 俺がこの時代に来たことにより、冒頭の戦で死ぬはずだった侍は生き残り、負ける予定だった戦は勝利
 その時から、俺がタイムスリップした瞬間から歴史が変化していた
 正確には俺が歴史に変化を与えていたのだ
 それで目の前の男はその変化を調整するために侍を殺すのだと言っていた
 この時間のここでやらないと歴史の変化の調和は無理らしい
 そうか、男が来なかったら妻を娶らず、冒頭の戦で死んでしまっていたのだ、この侍は
 男の姿が消えたと思ったら、時間が正常に動き出した
 そして再び動き出した侍は当たり前のように湯飲みに手を伸ばす、それは一般的に見たら普通の行動なのだ
 しかしその湯飲みに茶以外の別のものが入っていることを知っている俺は声を荒げた
「それを飲んだら……!」
 湯飲みを奪おうとした手は侍にかわされ虚しく空をつかんだ
 侍を見ると先ほどの、俺の話を聞いていた時と同じ、真剣な表情をしていて俺はなぜか何も言えなくなってしまった
「俺はお前が来てくれて本当に楽しかった、ありがとう」
 その侍は言った、至極穏やかな顔だった
 まるで湯飲みのお茶に何が入っているのか解っているかのような口振りだった
 いや、実際解っていたのかもしれないが、今となっては解らない、解りたくもなかった

 俺はそのまま元の時代へと戻って行った



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