私は運転免許証を持っているが車に乗るのは好まない。むしろ、原付や自転車などの風を感じられる乗り物のほうが好きだ。
今日は日曜日で仕事は休みだったので友人宅へ押しかけて、バイク(と言ってもスクーター)に乗ろうと誘う。
友人は渋々、ヘルメットを手に取る。私もここにくるのに自分の原付を使ったので、ヘルメットは自分のだ。でも、乗るのは友人のバイクの後ろの席。
休日限定の特等席だ。何で自分のに乗らないんだって? だって一つの原付に二人で乗ったほうが経済的でしょ! もちろんガソリン代は友人持ち。
私たちを乗せたバイクは海沿いの道路をひたすら走る。
つーか、やっべ、私たち今風になってるんじゃね?
「風になってるうぅぅ!」
「ちょっと待て、風になるのはいいが今回はアンタがガソリン代払えよ!」
「えー、何のことぉ?」
あはは、と返すとスピードが弱まる。え、ちょっと、もう少しでタイムスリップできるかと思ったのに!
何でよー、講義すると一喝された、ガソリン代値上がりしたんだからな! と怒鳴り声。
それは私だって知ってるよ、いいじゃんちょっとぐらい、ケチケチすんなよー。
「お前ここで降りろ」
「すんませんでした!」
「…わかればいいの」
こういうときに限って友人に頭が上がらない。。
「そゆことで、もっとスピード上げろおぉお!」
「わっちょ、やめええぇえ!?」
友人の右手を握りそのまま捻る。すると今まで以上にスピードが増す、これだ、これを待っていたんだ!
そして、友人からは悲鳴が上がる。まあ、いつもの事なので軽くスルー。
「ちょっと、まって、安全運転しないと、あたし、免停に、なるうぅ!!」
「ほら、“かもしれない運転”でいけって教習所のおっさんが言ってたじゃん! 私たちは風になっているのかもしれない! きゃっほーうぃ!」
「どんなかもしれない運転!? っていうか、このままだと風どころか星になっちゃうよ! 夜空に輝くお星様になっちゃうって!!」
「私は死んだら風になるんだー!」
トラックのクラクション音なんて気にしない。寧ろ、心地の良いBGMだ。
そして次の瞬間、私たちの体はバイクごと宙に浮いてそのまま真っ直ぐ砂浜へと誘われた。
「いっつつ…大丈夫?」
「アタシは大丈…」
ざぱーん。最悪だ、バイクは無事だったものの、私たちはずぶ濡れに。
とりあえず、起き上がって、水と一緒に付着した砂をはらう。この時期の海水は冷たかった。
やばい。これでバイクに乗ったら絶対寒くね? 死亡フラグじゃね?
「…仕方ない、帰ろう。このままだと風邪ひくわ」
「そ、そだね。…なんか、ごめん」
「そう思うんならもうしないで…」
表面上は謝っているけど内心ちょっと嬉しい。今日は風にもなれたし、海とも仲良くなった。うん、そう考えるとなんか楽しい。
帰りは二人ともなぜか笑い合っていた。あ、ちゃんと安全運転で帰ったよ。
そしてやっぱり寒かった…。
家に帰ると案の定、『風邪』をひいていた。
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