白浜香優学園、それは誰もが知っている私立の進学校。在校生徒のほとんどがお嬢様やお坊ちゃまばかり。
 その中でも3年G組という誰もが知っている、ある特殊なクラスが存在する。別名は『BG(びーじー)』で、これの意味は「BAKAなG組」の略称である。学年の平均点を下げている、所謂問題児(おバカたち)の集まりだ。
 そのクラスGでもとりわけ頭が悪い問題児を『B4』と呼ぶ。これは某漫画のようにイケメン4人組とかそういう意味ではない。
 B4――正式名称を『BAKA4人組』、つまりはクラスGなのかでもとりわけ頭の悪い生徒4人の生徒の総称である。

 そんなGとB4、担任神城悠里の愛と青春と笑いの物語


「はいはーい、みんな聞いて!」
 教壇の上で手をたたくと先ほどまで五月蝿かった教室内が静かになる。そういうところは彼女がクラスに認められたようで嬉しいものがある。
 生徒たちが彼女に視線を向けたとき、彼女は本題と入った
「みんな、明日から夏休みなのはわかってるわね?」
『はーい!』
 元気いっぱいの声が室内に響く。明日からではなく今から夏休みなのではないかと思ってしまうほど、生徒のテンションは上がっている。
 再びわいた室内を一気に静かにさせる一言が彼女口から飛び出した。

「と、いうわけで、全校総出で学校の大掃除をします!」

『……ええええぇぇえぇっ!?』

「やだー」「掃除キラーイ」「めんどくせー」「疲れるー」
 彼女の一言で教室内が騒ぎ出す、ほとんどがブーイングである。
 彼女は騒がしい教室内を一蹴することにした。
「はいはい、これは全校で決まったことなの、新学期をキレイな学校で迎えるためよ! つべこべ言わずにやる! みんなで協力してやれば早く終わるから」
『はぁーい』
「担当場所はここに書いてあるから、みんな考えて散らばって」
 先生も協力するからね、そう言って黒板に一枚のプリントを貼り付けた――


「センセー助けてー!」
「ちょ、な、なな何なのおっ!?」
「おらシローまちやがれぃ!」
 B4のいる中庭の手伝い兼見張りに来た悠里を待ちかまえていたのは、大惨事だった
 逃げる真白、水鉄砲を持って真白を追いかける祐馬、びしょ濡れの始、ベンチで寝ている三木
 現状を目の当たりにした悠里は全ての元凶であろう祐馬に怒鳴る。
「ちょっと、なにやってるの!」
「センセー、ユーマがぁ!」
「え、ちょっと、なに……きゃあっ」
 走り回っていた真白が悠里の背後に回ると、祐馬の持っていた水鉄砲から水が飛び出した。真白を狙ったそれは真白の前にいた悠里が浴びる羽目になってしまう。
「祐馬くん止めなさい!」
「へっへーん、べっちゃべちゃだぜー? ユーリちゃーん」
「……始くん、これはどういう状況なの?」
「え、えっと、先生……」
 始が話すには、みんなで掃除をしようとしていたら祐馬が水鉄砲を持ち出してきて無差別に水を掛けていったとのこと。
 それでまだ濡れていない真白を追いかけているところに悠里がやってきた。
 ちなみに三木はここに来たとたんに寝てしまったらしい。
「センセー、ユーマってばずっと真白のこと追いかけてくるのぉ!」
「ユーリちゃんもやるかー?」
「やりません! 祐馬くん真面目に掃除しなさい!」
「やーなこったー」
 水鉄砲を持ったまま悠里から逃げるように走り出す祐馬。悠里は残りのメンバーに、ジャージに着替えてから掃除をするように指示だけして祐馬を追いかけた。

「祐馬くーん、捕まえたわよ」
 中庭が綺麗に片付いた頃、祐馬を捕獲した悠里が戻ってきた。祐馬を引きずって。
 不貞腐れた祐馬を見た真白は彼に近づく。
「ユーマ捕まってやんのー! べーっだ」
「シロッてめえ!」
「祐馬くん、」
「っ、……後で覚えとけよ」
「ふふーん」
「真白くんも、けんかしない!……おお、綺麗になってるわね、みんなお疲れ様」
 祐馬以外のメンバー(もちろん寝ている三木も除外される)が綺麗に片付けた中庭を見渡して笑顔になる悠里。彼女の言葉を聞いた生徒たちはお疲れーと口々に浮かれたいた。
「せんせー、もう教室戻ってもいいですかー?」
「そうね、もうそろそろ大掃除は終わりの頃だろうし」
 腕時計を見て悠里が言うと、生徒たちは各々教室に戻っていく。それに便乗して逃げ出そうとした祐馬は始に捕まってしまう。
「はじめくーん? 何のつもりかな?」
「お前が逃げると先生の苦労が増えるだろ」
「へぇ、始くんはいつからユーリちゃんの味方になったのかなー?」
「俺はいつでも先生の味方だし」
「へええ、もしかして始はユーリちゃんにラブだったりするのかなあ?」
「ばっ、ちげえよ!」
「ず・ぼ・し?」
「こいつ……ぶっとばすっ!」
「望むところだあ!」
 こそこそと話をしていた二人がいきなり喧嘩を始めたのでどうしたことかと悠里が慌てだした。彼女を見て隣にいた真白までもが一緒にあわてだす。
 教室に戻りかけていた生徒たちもざわざわとギャラリーを作りだす。悲鳴を上げる生徒も出た。
 とうとう流血沙汰にまでなりかけた騒ぎは止まることを知らない。
 悠里もここまで発展した喧嘩は見たことが無かったので余計パニックになる。真白にいたっては泣き出してしまう始末だ。
「ちょっと、二人とも、え、え、どうしちゃったの、喧嘩しないで!」
「うわああん、ハジメもユーマもやめてよお!」
「うるせえシロ口出しすんな! おらあ!」
「っ、これは男と男の勝負だあああああああ!」

「そこまで」

 中庭が鮮血に染まりかけたその時、いままで寝腐っていた三木が起き上がり二人の間に入った。
「祐馬も始も、喧嘩はダメ」
「三木とめんな」
「そうだぜ、今はこいつと大事なもん賭けてんだよ」
 三木が二人の手首を掴むと、祐馬と始は激しく抵抗する。しかし彼はそんな抵抗なんて効かないかのように微動だにしない。
 彼はしっかりと手首を掴んだまま二人を睨み付けた。そのどこか冷ややかな目を見て、抵抗しても無駄だと気づいた二人は大人しくなった。
「先生を困らせちゃダメ」
「……わーったよ」
「先生に迷惑はかけたくないしな……先生ごめん」
 真白と二人で混乱していた悠里は、始の謝罪で我にかえる。
 二人が喧嘩を止めたと知って、彼女はへなへなとその場に座り込んだ。
「わわわ、センセー大丈夫!?」
「よ、よかったあ……」
 真白が悠里の顔を覗き込んでみると、彼女は目尻に涙をため、手を胸の前で握り締めていた。
「ハジメとユーマがセンセー泣かせたー!」
「え、ちょ、先生大丈夫か!?」
「へっ……悪かったな」
 顔中ぼこぼこに腫らして悠里に謝る始。祐馬もぼそりと謝罪の言葉を述べたのを悠里はしっかりと聞いていた。もちろん祐馬も顔中ぼこぼこだ。
 胸くそわりー、と祐馬はその場から去ろうし、忘れ物をとりに行くように始の元へ行き、一言。
「ユーリちゃんは渡さねーから」
 ぼそりと呟いた。
 それを聞いた始は逃げるように走っていった祐馬に叫ぶ。目はそうとう驚いているのか見開いている。
「はあああああああああっ!?」
「こんなおもしれーオモチャはお前にはやんねーよ」
 にしし、と笑って教室の方へ走っていった。
「(祐馬まじぶっとばす!)」
 悠里も真白たちに支えられながら教室に戻ろうと立ち上がった。落ち着いたのか、いつもの悠里に戻っていた。
 彼女が立ち上がったのに気づいた始は、そそくさと彼女に近づく。
「先生、大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ、これくらいでへこたれてたら担任なんて出来ないからね!」
「さっすがセンセー!」
「三木君もありがとうね」
「僕はいつでも先生の味方だから」
「ありがとう」
「シロちゃんも! シロちゃんもセンセーの味方!」
「ふふ、真白くんもありがとう……ほら、」

 かくして、ドタバタ大掃除は幕を閉じたのでした。
 二つの恋心と血に染まった芝生を残して。



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