折原くんと図書委員さん



れた、と。好きになってしまった、と気付いたのは些細なことだったと思う。

少なくとも、今となってはもう思い出せないくらいには。


それでも一度そうなってしまえばあとは深みにはまっていくのみで。

抗おうとする気さえ起きないこの感情は全く持っておれの手には余るものだった。のに、嫌だとは思えないのはきっとそれが彼女に対する感情だからなんだろう。


今の俺は多分大好きな人間と同じかそれ以上に人間じみてて、ああこんな感情が残ってたんだなあなんて。彼女を見る度に浮かぶごちゃまぜなこの感情こそ、"人間らしい"言葉では言い表せない本物の感情なのだろう。



「………あーあ、…」



採集した資料(シズちゃんに関するもの)を見つめてはいたものの、一向に内容が頭に入ってこない。なんでこんな思考の時に大っ嫌いな男の話なんて読まきゃいけないんだと脳内で記憶容量がボイコット。

しばらく粘っては見たものの無理そうだったから、脳内にしたがって資料を机に投げ捨てた。あ、ヤバ散らばった。………後で片付けよう、うん。


ふう、と一息ついて軽く首を回す。その時に目に入った別の、メモ程度の大きさの紙。
『"彼女"について』とだけ書かれたそれは真っ白。



一度前に調べようとした彼女のこと。名前と学年にクラスは当然のことながら、身長体重交友関係趣味好きなもの嫌いなもの普段何してるか異性のタイプ今までの恋愛経験なんかまでいつも通り根掘り葉掘り調べようとしたことはあった。

あった、んだ。今となっては過去形だけれど。


誰かに聞こうとした。噂とかないかを調べようとした。他にもいろいろな方法で知ろうとした。
でも、それでいいのかとふと思ってしまった。

あらぬ噂が立つ可能性も確かに考慮した。俺が調べるなんて、と好奇の眼でその調査対象を見る奴もたまにいたから嘘じゃない。


でも、一番は。

彼女のことくらい自分で知りたい。自分で聞いて、彼女自身に答えてほしい。
そう思ってしまうのはまあ、恋愛中の人間にとっては当たり前の事じゃないのかな。

ついでに、他の人間が自分以上に彼女を知っているなんて、わかっていたとしても嫌だし少しムカつくし。
それが男だったならなおのことだ。



そこまで考えて調査はあきらめることにした。

それはいいんだけど、結局あの時から好転どころか進んですらないのはどうなのか。


せめて苗字くらい知りたいなあ、と思いながらその本人から借りた本に手を伸ばす午後8時。




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