※学パロ





「………」

「………」



無言が気まずくて、ずっと下に向けていた視線をつい上にあげると目の前に立っている方と視線が合ってしまい、すぐさま逸らした。
睨まれるような視線に悲鳴を上げそうになったけど、堪えた私は偉いと思う。

あああああ、もう。何なんだこの空気。





ほんの数歩前には綺麗な緑の髪をした、私を呼び出した張本人。
この学校じゃ――悪い意味で――知らない人はいない誰であろう覚醒先輩。

所謂不良という部類に入る彼は、喧嘩、暴動、盗み等ありとあらゆることをしているらしい。


そんな覚醒先輩と私の接点は無いに等しい。
強いて挙げるなら同じ学校。本当に唯それだけである。

本当にそれだけのはずなのに、昼休みに行き成り私のクラスにやってきた。



ただでさえクラスに入ってきてビビッていたのに、何の迷いもなく私のもとにやってきて「放課後、体育館裏に来い」と言うだけ言って去って行った。

一時的に固まったが数十秒後、事の重大さがわかり倒れかけたのは仕方ないと思う。




どうすれば良いのか困った結果、覚醒先輩と同じクラスで且つ付き合いの長いペチュニア先輩にアドバイスを貰いに行った。

けれど、事情を説明すると彼女は、柔らかく笑んで「行ってあげなさい」なんて答えを頂いた。
いや、確かに行かなきゃ後が怖いですけど…。
そう本音を漏らせば、「そういう意味じゃないのよ」と何故か微笑ましそうに言われた。そして「青春ねえ」などと言って去った。

何だってんだちくしょー。




「………」

「………」



現実回想が行き詰ってしまったため、また思考が現実から逃避しようと材料を探す。

といっても体育館裏になんて、思考を逸らすほど面白味のあるものなんてないわけで。
結局思考の対象は、現状を作った方。覚醒先輩に向いた。


チラリと(決して視線が合わないよう)盗み見る。
迷彩のTシャツの上から学ランをラフに着こなし、軍帽のようなものをかぶっている。首にはペンダント?ネックレス?をかけていて、不良気味の格好ではあるが実によく似合っている。

うん、とても格好良いとは思う。


……と、いうよりそもそも、覚醒先輩は女子に人気だ。
今言ったように格好良いし、周りの友人たちに言わせてみれば「ちょっと悪いくらいがカッコイイのよ」だそうである。噂を聞く限りちょっと悪い程度じゃすまないと思うのだが。


そんなに良いと思うなら今の状況を代わって欲しい。



「………」

「………」





……沈黙が、痛すぎる。


結局、無駄なところに思考を巡らせようとしても現実は無くなったりなど当然しないわけで。

助けを求めようにも相手もいないし。(待ってて助けてといったのにあの双子共は逃げやがるし!!)


本当にどうすればいいんだこの状況下!!



「っ!!」



所在なく彷徨わせていた視線がバチッと合った。睨まれる。


ど、……どどどどうしよう、この感じ。土下座?土下座かな!?あれだ、何も悪いことはしてないけど真剣に謝れば覚醒先輩にもきっと誠意は通じる、ハズだ!……ああ、でも覚醒先輩容赦ないって噂が飛び交ってるんだよ!!そしてそれは正しいとついつい思ってしまうわけで。でも仕方ないよねあんな怖いんだから!特に英雄生徒会長と出会ったときなんか惨劇以外の何でもないとかランピー先輩言ってたし!「毎回死者が出ないのが不思議なくらいだよねえ」なんて朗らかに笑って言ってたんだもの。何だよ惨劇って死者でないのが不思議ってどんな死闘を繰り広げt



「…おい」

「は、はははははぃ!?」



思考回路は爆発寸前且つ暴走済みだったのに、覚醒先輩の一言で一気に現実へ呼び戻される。
驚きすぎて声が裏返ってしまい怖いのとついでに、かなり恥ずかしい。



「あー……」

「………」

「何だ、その……だな」



もうバッチシ目を合わせてしまったので、今更視線を逸らすのは何となく憚られる。逸らした瞬間、ガブッといかれそうな、いわば肉食獣に狙われた小動物状態。


ただ、その肉食獣の覚醒先輩は様子がおかしいことに(今更だが)気付いた。何だか口ごもってるし少し俯き加減だし、何より顔が赤い。顔はずっとこっちを向いたままだけど、視線は何故か泳いでる。



「……あー、その…ナマエ」



ふらりと視線が私に戻り、何かを決心したように名前を呼んだ。


ん、…名前?ナマエ。ナマエとは私の名前だから、今覚醒先輩は私の名前を呼んだわけで……。



「………………ナマエ」

「う、…あ、……はい」



もう一度呼ばれて戸惑いながらも返事をする。






そして、漸くながら覚醒先輩の目的が何となくわかってしまった。
名前を呼ばれたことで気づくなんて、何となくロマンチックだとか場違いにも思う。


覚醒先輩が、というのと私なんかに、というのが相まって全く考えもつかなかったことだけれど私にだって(ほんの1、2回のみだが)経験くらいある。

この人気のない場所で、二人きりで、妙に気恥ずかしさがあるこの感じは、つまりはそういうことで。







小さく一呼吸おいてから、覚醒先輩には似つかわしくないほどの小さな声で、けれども私にははっきり届く綺麗な声で。

漸く目的の一言を告げた。





(好きだ)










タイトルは「確かに恋だった」様から。
一度絶対にやってみたかったネタ。まさか学パロの覚醒でやるとは思ってもいませんでしたが。



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