「ん、土方さん。あーん」
「……拒否していいか」
「あーん」
「……なまえ」
「……もういいもーん…」
差し出していた団子を自分の口に持っていき、すねたようにパクッと食べる。
それを横目で見ていた土方さんは眉を潜めた。
……まだ、根に持ってるんだろうなあ。
それは、数刻前の話。
「ねぇ、なまえちゃん。土方さんじゃなくて僕の所に来なよ。あの万年御通夜みないな顔と一緒だと疲れるだろう?」
「誰が万年御通夜顔だ、総司」
「ははっ、やだなぁ土方さん。僕は本当の事を語っただけじゃないか」
「……出ろ」
「ほら、なまえちゃん。土方さんからお許しも出たことだし、行こうか」
ぐいっと腕を掴まれそのまま沖田さんの方へ体が倒れこむ。
「う、わっ…!!」
困った表情で土方さんを見ると、目が細められこちらを睨まれる。
―――やばい。
「あの!!沖田さっ…!!?」
いきなり後ろへ突き飛ばされる。
後ろへと倒れながら見たのは刀を抜いて沖田さんに斬りかかっている土方さんと、それを同じく刀で止めている沖田さんの姿。
「……危ないなぁ、土方さん。彼女ごと僕を斬るつもり?」
「はっ、お前なら突き放すだろうが」
「そう思ってくれてるんなら光栄だな。土方さんはそこまで僕のことを信用してくれてたなんて」
睨み合いながら一度離れて、二人は向き直った。
「あはははっ。土方さんがここまで怒るのも珍しい。なんだか嬉しいね」
「そのまま笑い死ね」
土方さんは超怖い顔で、沖田さんは笑みを浮かべたまま一つの個室で暴れまくっている。
「ねえ、土方さん。一つ聞いてもいいかな?」
「あ?」
聞きたいことがある、なんて言いながらも二人の戦いは収まるどころか過熱していく一方。
けれど、
「その歳の差で、本当に祝言を挙げるの?」
一瞬だけ土方さんの動きが止まったのが私にも分かった。
その隙を突いて沖田さんが斬りかかろうとした。刹那、ふすまが開いた。
「はっはっはっ。こら、総司。今更そんな事を聞いてどうするのだね」
笑顔で沖田さんと歳さんを制しながら入ってきた近藤さん。
「近藤さん。こうでも言わないとこの人はなまえちゃんから離れてくれそうにないからさぁ」
「そんな事を言うもんじゃないぞ。普通に歳の離れた夫婦など腐るほど居るんだからな。
…すまんなぁ、トシ。総司はまだ子供故に」
「……いや、別に」
そう言いながらも目を瞑り眉間にしわを寄せているから、沖田さんの発言に納得していないことがありありと伝わる。
近藤さんは軽く苦笑いして、沖田さんが笑っていた。
また斬り合いになりかけた。
それから数刻後の今。
団子はもう(私が)全部食べてしまい、気まずさを回避する術が無いままお互いしばらく黙っている状態。
この、どこかへ行こうにも行けず、話しかけようにも話しかけ辛い雰囲気がもうしばらく続いたとき。
小さく、土方さんが呟くように私に問いかけた。
「…嫌、か。俺と祝言をあげるのは」
「え?」
話しかけられることも、その話の内容も全く予測できてなかったからつい驚いて顔を土方さんに向けてしまう。
すぐさま逸らされて、また沈黙。
「………」
「………」
驚いたことがさっきの質問への肯定の意味を示してしまったように思い、後悔。
そしてこの気まずさの再開へも。
だから今度は私から話しかける。
「土方さん」
「……何だ」
「私は、愛に年齢の差なんて一切関係ないと思うよ」
隣で彼の顔が少しだけこちらに向けられることが視界の端に映る。
でも、私が顔を向けるとまた視線を逸らされてしまいそうだから正面を向いたまま話し続ける。
「だってそうだよ?私は貴方が大切で大好きで愛してて、そこにはそれ以上の理由なんて無くて」
何も考えずとも、いくらだって言葉が出てくる。
「愛してると心の底から思うから土方さんとどれだけ年齢が違っても、周りが何て思っても言っても、私は貴方が――トシが良い。そうじゃなきゃ嫌だよ。
だから、」
そこまで言って、抱きしめられた。
胸元で抱きしめられているから表情は見えないけれど、いつもより暖かい体温とほんの少しだけ不規則になった心音でよく分かる。
それから、抱きしめられたことによって私自身の気持ちも再確認。
「このまま、絶対に私のことを離さないでね」
「……当然だ」
抱きしめられる力が強くなる。
少し苦しいくらい。そして、それがとても心地良い。
でも、少しだけそこから抜け出して耳元に唇を寄せて抱きしめ返す。
耳元で囁いたのはさっきの言葉の続きで。
「私はこの身が朽ち果てても尚、永久に貴方を愛し続けることを誓います」
(……普通その言葉逆じゃねえか)
(いいじゃんかー、偶には。
私は普段の格好良いトシも今日のように素直なトシも大好きなんだしね!!)
(………)