遠くから音が響いてくる。
誰かがこっちに向かって歩いてくる音だ。



「嫌…来ないで…!!」



誰かなんて表現が曖昧すぎる。
歩いてくる音が聞こえた時点で誰かなんてとっくにわかっているのに。


私はそれを感じたくないから、自分の両手で音が聞こえないように必死に耳を塞ぐ。

けれども足音は無くならず近づいてくる一方で、更に手を動かしたことにより余計な金属音が耳に響いた。


ギィッ


遂に部屋唯一の扉が開けられて、耳を塞いだ手の隙間から聞こえるその音でその人が来たことが分かってしまう。



「っ…!!」



否で嫌で怖くて恐くて、手に力を込めてもっと耳を塞いで強く目を閉じる。
けれども、現実は、無くならないわけで、



「…その手を離して、目開けてください」



その人が私に近づいて囁く。
甘言のような声色なのに恐怖以外私に与え無い。


眼を閉じていた私はその行動に気付かず驚いて眼を上げてしまう。
そしてその人と眼が合ってしまう。



「そのまま手もはずしてくださいね。…痛いのは嫌でしょう?」



その言葉を聞いた瞬間体がビクッと反応する。
まだ、何もされて無い。けれど、何をされるかわから無い。

現に片足、両腕そして首についた鎖がそれを物語っている。


怖くて怖くて仕方が無い。だから、ゆっくり耳を塞いでいた手を下ろす。



「いい子ですね」



そう言って彼は微笑んで私の頭をゆっくりと撫でる。触れられるだけで、私の体は敏感に反応する。

そしてその度に付いている鎖の音が部屋に反響し、監禁されているということを更に理解させる。 



「さて、やっぱり今日も言ってくれないんでしょうねぇ。言いさえすれば開放してあげるのに」



絶対に嘘だ。
貴方は言ったって開放なんかしないでしょう?眼が、そう言ってる。

だったら私も言わない。言いたくない。…たとえ開放されるのが本当だとしても言うものか。



「困りましたね……何故貴女はそんなに口を割らずにいられるのでしょう?」

「…私は、貴方に何をされたって絶対に言わない。あの人と約束、したから」



怖くて怖くて仕方が無いけれど、いつもいつもこの言葉にだけは返事を返す。
だって私は、



「っ!!!」



いきなり唇を奪われる。
優しく、触れるだけのキス。そして、そのまま床に倒される。



「何をされても言わない、ですか。…では、そろそろ僕も強引な手段をとりましょうか」



そう言ってそのまま自分の手を私の首に持っていき、手に力を込める。



「ぅ、あ………!!」

「苦しいですか…?言ってくれれば緩めますよ?」



甘く甘く耳元で囁かれる。
けれど私はそれを拒絶してゆっくり、けれども明確に首を振る。

そうすればもっと手に力がこもって、息が出来なくて苦しくて意識が薄れてくる。



「…!!」

「苦しいでしょう?辛いでしょう?言ってくれさえすれば楽になるんですよ…?」



其処までされて、「ああ、もう言ってもいいかな」なんて思うようになってくる。
監禁されて唯でさえズタボロだった精神はもう、崩壊寸前で。



唇を閉ざしたままでいるともう一度キスをされる。
優しく触れ、ゆっくり離れる。


そしてそのまま離れた相手が紡ぐ言葉に、私は頷いてしまったのです。



「さぁ、」






(愛してると囁いて)



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