「榎っ!?ひっ!急に何やって……!?」



全く予想もしていなかった状態で、いきなり真後ろから抱締められた。
そのまま榎木津さんの指先は鎖骨から胸辺りに置かれる。



「なまえ、君も飲むといい。飲め」

「い、いえ…!本当に結構…ですっ…!!」

「わははは!相変わらず謙虚だなっ!!偶には甘えてみろ!」

「ひゃっ…!!」



胸元に置いてある手は決して厭らしいわけではない。

けれども男の人、まして榎木津さんのような美形に抱締められこんなことをされれば誰だって顔が赤くなるし、微かでも指が動く度奇声も発してしまうはず。

恥ずかしすぎて動けない。





どういう経緯で手に入れたのかは分からないが大量のお酒を飲みながら、帰ってきた私を出迎えた榎木津さん。何時だって何処にだって現れるこの人にはもう随分慣れてきた。

しかし。しかしだ。
酒を飲んでいる榎木津さんには慣れれてなどいない。というかそもそも遭遇したくなかった。


……酔っている、と云っても本当に酔っているわけではない。少々普段よりも機嫌が良いような、その程度だ。
けれども普段から榎木津さんに振り回される私からしてみれば酒を味方につけている今のこの人は十分に怖い。






「…………」

「……どう、しました…?」



上機嫌に私をからかっていたのに、急に静かになった為不審に思い恐る恐る声をかける。



「寒い」

「ひぃぁっ!?」



私の胸元に置いていた手とお酒を持っていた手がいきなり腰に回り、更にきつく抱締められる。
凄く恥かしい声を出してしまったことなどもう気にするところではない。

音にするならばぎゅううう、と云うのが的確なほど強く抱締められている状態で、私は何も出来ない。
触れられた体は妙に熱いし榎木津さんの胸元に寄りかかっている頭は真っ白でくらくらするし吐息がかかる項は異様な寒気を覚えるし。

嗚呼、もう。何か気を逸らせるものは無いのか。



「……あ」



必死に熱さから逃れる為視線だけ周囲に巡らせていると窓の外に眼が行った。



「雪、だな。雪。
……何をそんなに呆けている?」

「いや、だって今日は―――」



小さく上げた驚きの声はしっかり耳に届いていたらしい。
榎木津さんも同じく窓の外を見ている。…私と違い、全く何も思うところは無いようだが。

今日は所謂、聖夜。別に宗教的な意味など私は知らないしそういった意味ではないのだろうが、雪が降ったほうが雰囲気が出る、なんて誰かが言っていたから。



「今日は雪が降ると雰囲気が出る…んですよね。あまりよくは知りませんが」

「別に雪なんか降ったって降らなくたって今日は今日だ、何の関係も無い!」

「いや、まあそうなんですけどね」



きっぱり否定されて少々苦笑する。確かに榎木津さんは……いや、榎木津さんもそんなこと気にする人間ではない。

けれど、思考を逸らすという目的を果たす程度には効果があったらしい。
腰に回った腕の力が緩くなって、身じろぎするくらいの余裕は出来た(身体的にも精神的にもだ)。




「…そういえばなまえ、君から何か無いのか?」



暫く窓の外に視線を移していた榎木津さんがふと思い出したように聞いた。



「私、からですか?えー…急に言われても……」

「今日はクリスマスなんだから用意しておくのは当然だろう!!
そう気が利かないから僕や京極はおろか、猿共にも揶揄されれるんだ!!」

「は、はぁ……すみません」

「分かればいい。
それで、プレゼントは?」

「え……えーと、」



ころころ変わる話はいつものこと。前後が矛盾してるだなんてことも彼には関係ない。

そしてこんな状態の榎木津さんからは逃れられないことも、よく分かっている。
お酒が入っているのなら尚更だ。


プレゼントなんて無いと言っているのに。










長い沈黙の後榎木津さんが口を開いた。
それはそれは楽しそうな意地悪そうな声色で話しかけらる。

先程とは別の意味で、背筋がゾクリとする。



「無いのなら」

「無いの、なら……?」



子どもの無邪気さとも大人の妖艶さともとれるような笑みを浮かべ、一拍おいて嫌に熱っぽく囁いた。






(君がほしい)










メリークリスマス!!

ベターな展開もやっぱり素敵ですよね。
榎木津さんにならいくらでも振り回されたい!



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