「――へえ、好きな子が、できたの。
刀剣男士って人を好きになるんだねえ。俺ちょっとそこにビックリ。
だって人の形をとっているとはいえ刀剣で、神様でしょ?なんていうかさ……あんまりそういうの興味ないんじゃないかなあってずっと思ってたんだよね。

……まあでも、そうだよねえ。そりゃ一年近く半ば人としているならそういう感情くらい目覚めてもおかしくはないか。元々意志もしっかりあったし、俺の偏見が過ぎたんだろうなあ。

……あーごめんごめん、脱線させたね。
とりあえず、おめでとう。よかったねえ。で、お相手はだあれ?

……あの子か。うんうん、なるほどなるほど。
ふふふっ……ねえ、どういうところに惚れちゃったの?顔?性格?

……全部とか、君も言うねえ!
強いて言うなら自分にないころころ変わる表情とか優しいところ?へーえ。
いやあ、わかるわかる。よくわかるよー、うん。とっても。
ほかには?何か思うこととかある?

……へー、好きな人のいろんな表情が見たいと。
泣いていたりとかはそりゃあんまり見たくないけど、それでもそれが自分だけに見せられる表情なら悪くない?……ああ、当然のように、笑ってたり恥らってたり愛しいと伝わるような表情も、だよねえ。
んー、わからなくもない……いや、俺には当てはまらないかなあ。

……え、それは俺が誰か好きになったことないから?
いやいやー、俺だってもうこの歳よ。恋くらい何度か経験してるって。

……あれ、そんなに不思議?そうかなあ?
人によって感じ方はほら、違うからねえ。考え方の違い、とも言えるだろうけど。
まあいいや。今は俺のことなんかよりも君のことだよ。

……あはははは!本当にねえ!すっごく人間らしいなあって思うよ。
そりゃあ初めからそれなりに意志はあって、好き嫌いとかもそれなりにあってキャラが立ってたけどさ。思考というか感情というか……近づいてるなあって感じるよー。
うん、ほんと。誰かを、人間を、好きになるなんてねえ。

それで?

……いやいやー、それで?って言ったら「それで、これからどうしたいの?」ってことだよ。
察してよね近侍ー。
なんて、まあそれは冗談として。どうするの?どうしたいのさこれから。黙って見てるだけに留める?頑張ってアピールしてみちゃう?

……ふーん、そっか。頑張っちゃうんだねえ。
いーことじゃない。

……うん、いいことだよ。人間としては。人間ならば。
だから、そんな君に俺も一つだけいいことを教えてあげようか。何でも知らないよりは、知ってるほうがいいでしょ?
あ、もちろん聞きたくないっていうんなら無理してまで教える気はないんだけどさ。
どうする?聞きたい?

……ふふっ、素直だねえ。
好いた子のできる限りを知りたいだなんて。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるよ、もう。
じゃあ、教えてあげる。
一つだけ。俺が君に教えられる、あの子に関する一つの事実。

あのね、実はね。


――その娘はね、とっくの昔に俺のなんだよねえ。


……ははっ、驚いた?
ってなんか鶴丸みたいだねこれ。いや、でも驚かせて楽しんでるって点では似たようなものか。
今日はいつもの君らしからぬ、そんな表情をたくさん見れて楽しいよ。うん、満足満足。

……うん?ウソ?
いやいやー、いくら俺でもこんな状況でこんなウソ吐かないよー。吐く意味もないし、性質悪いでしょそんなの。

……うーん、どうしても信じられない?
それならもう一度、はっきり言ったほうがいいかな?そっちのほうが信じられるし信憑性増す、よねえ?
じゃあもう一回言うよー。

彼女は、君が好きになったのは、君が刀剣として生を受けて人として生きている中で初めて本気で想った相手は。君が守るべき仕えるべき従うべき主人である、俺の、なんだよ。

……あ、今度はちゃんと呑み込めた?
いやあ、本当に悪いねえ。どのタイミングで言い出そうか、そもそも言い出そうか迷ってたんだけどさあ。前々から。

……ん?何言ってるのさー。そりゃあ気づいてたにきまってるじゃない。
だって、俺の最愛の人に向けられてる視線だよ?それにほら、俺人間だしね。
君も、他の刀剣男士たちも、どれだけ人間に近づいているように見えてもさ、やっぱり刀剣で神様でしょ。人の形をとって一年程度のモノには変わりないし。
俺もうその何倍もの時間人間やってるからさあ。君らよりは感情の機微に敏感よ?

呼び出して伝えるまではしないでおこうかなーって思ってたのにほら、今君の気持ち聞いちゃったじゃない。分不相応にも人間のように人間に惚れて、あまつさえ自分の仕えてる人間の恋人に近づこうなんてきいちゃったらさ。やっぱり、ねえ。
俺も大事な大事な最愛の恋人を盗られるワケにはいかないからさ。

……あー、これでも信じられない?信じたくない?
その気持ちはわからなくもないけど……。うーん、困ったなあ。俺君には素直に諦めて欲しいんだけどなあ。
君は近侍で俺の仕事よくわかってるしフォロー上手いし戦闘強いし……。スパッと、ムリ?

んー……あ、そうだ。
じゃあさ、夜にでもこっそり俺の部屋に来ない?今夜にでも。すぐに。

そこで彼女と一緒にいてあげる。
抱き合って口づけて交わって、彼女から愛してると言われてる姿を見れば認めざるを得ないよねえ?

それに、ほら。"好いた子のいろんな表情が見たい"んでしょ?
俺はそうは思わないって言ったけどさ、君はそう思うんだよね。うーん、やっぱり俺にはよくわかんないなあ。
でもこれで一つ叶うよね。相手が俺だけどさ。よかったねえ。

……あはははは。
なあに、ようやく自覚したー?
自分がどれほどのことを言ってたのか。どれだけ罪深いことを想ってたのか。

……いやあ、別に謝らなくていいよー。俺まだ怒ってないし。
だって何かや誰かを好きになるのは仕方のないことだしねえ。いくら人でない、人以下の道具であり人以上の神であるとは言っても今は人の形をとってるんだし。
ただただ、人にどれだけ近づいたとしても君は人じゃないってだけで。

重要なのは、ここから、じゃないかなあ?

君は君の心を自覚した。君は真実を自覚した。人でない君は仕えるべき人たる主君の最愛の人を想っているのだと自覚した。
人以下でも人以上でもある、決して人と等しくはならない君が。君以上であり君以下である人である、君の最愛の人にとって最愛である男の俺を。

……さて、うん。それじゃあもう一度聞こうかな。
三度目はないよ。返答の引き延ばしも却下する。


ねえ、それで?」

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