辿りついた町は最悪だった。
誰にも迷惑をかけず誰にも知られず静かに惨めに醜くこの生を終わらせたいと願って。生に絶望して。だから誰も知らないような死に場所を求めて歩いていたのに。
ふいに途切れた意識。重くなるからだ。耐えきれずに倒れて、目が覚めたら見たこともない町の住人になっていた。
見たこともない場所。見たこともない人達。
怖くて仕方なかった。気持ち悪いだけだった。今更新しい人生なんて求めてやしない。
だから、目が覚めた数分後、家にあったロープで首を吊って死んだ。
こんな恐怖と嫌悪には耐えられなかったから。理想はあれど結局死ねればどうでもよかったから。
なのに、目が覚めたら朝だった。
何が起こったかわからなかった。死んだのかどうかも曖昧になった。当たり前だ。
それから、暫く毎日情報を集めるために嫌悪を抑えて住人と話したり痛みに耐えて死んだりしてわかったのは、この町には"死"がないということ。死んでも翌日には何事もなかったかのように生き返ること。
死ぬ前以上の絶望などないと、本気で信じていたのに容易くそれは覆された。
戦慄。恐怖。慟哭。絶叫。そうして、絶望。
世界からの逃亡は赦されない。死にたいのに死ぬことすらできない。
思考が真っ白になる。音を拾わなくなる。触れてるものの感触すらわからない。世界が黒く塗りつぶされ――
「俺がテメェを殺してやるよ」
何時の間にか吹っ飛んでいた扉と幾人かの死体、その血。
そして光を浴びた真っ黒の人影。瞳の金色だけが認識できる。
「殺されても無意味です」
「毎朝死ねばいいだけの話だろ」
テメェが消えてなくなるまで。
嗚呼、そんな素敵な回答があったのか。
思わず感嘆の息と共に零した言葉に、影は笑う。
「じゃあ、記念すべき一回目だ」
その言葉の次の瞬間、左胸にサバイバルナイフが突き刺さっていた。一瞬。
バタリと前のめりになって倒れるが、心臓はギリギリ外れたのか即死ではなかった。首だけを持ち上げてみると、影がはっきりと人に変わる。
「これからもよろしく頼むぜ?」
ニィィッと口元を歪めて笑う彼は、私の人生の中で最高に神々しかった。
そしてきっと、これからも。
(幾万にもさようなら)
(私がこの世界から逃げ出せるまで)
死にたがりとその子の望み通り殺してあげる覚醒の話を書きたかっただけなのに……。なんか大分わかり辛い感じになってしまった…。