穏やかに、明日へ


長い足が、ソファーからはみ出している。
そっと近寄ると亮は気持ち良さそうに寝ていた。



穏やかに、明日へ



レースカーテンから零れる光りが彼の寝顔に陰影をつける。

(珍しい……疲れてるんだろうな)

恐らく亮にとっての日常はデュエルで、こうやって部屋でゆったりするのは非日常なんだろうと思う。

少し寂しいけど仕方がない。
今年で最高学年になる。
つまりデュエルアカデミアの頂点に立つのだ、ただ座っていればいいだけじゃない。
そして亮もそれをできる人ではない。

優しい人、名無はつくづくそう感じる。
まるで今の寝顔のように。



「……ん………名無か」
「ごめん、起こしちゃった」
「いや、構わない……うたた寝だ」
それでも眠たげに瞼は落ちかけている。
名無はくすりと笑って亮の髪をすく。
「まだ寝てたら?ご飯まで時間あるし」
「…それではお前を呼んだ意味がないだろ」

ソファーからはみ出していた亮の右手が頬を撫でる。

「…名無」
「何?」

何度か滑らすように亮の指が往復する。
そっとそれに名無は手を重ねると亮は笑った。

「名無、何がしたい」
「そうだなぁ…亮といられるなら何にもしなくていいや」
「…なら一緒に寝るか」
「それもいいね」

二人はくすくすと笑いあう。
きっとこんな日を幸せと呼ぶのだろう。

「もう三年生か…早いね」
「二年間、あっという間だったな」
「今年こそ面白い子が入ってくるといいな」
「明日香が入ってくるだろう」
「うーん…そうだけど」

ぽすんと名無は頭を亮の腹の辺りに載せる。
亮の右手は頭に移動してまた柔らかく撫で始めた。

「明日香は女の子でしょ?……私が入って来て欲しいのは男の子」
「…男子?」

亮の手がピタリと止まる。思わず名無は吹き出した。

「亮……わかりやすすぎる」
「……」
「私が男の子っていうのはね…亮の為だよ?」

名無はゆっくりと顔を上げた。

「亮を楽しませてくれるデュエルをする後輩が欲しいな…ってこと」
「俺を…?」



「だって…今つまらないでしょ?」



「…そんなことはない」
「……亮は優しい、ね」

寂しそうな笑顔が名無に張り付いている。
ごめんともとれるように唇だけが悲しげに歪めて。

「あーあもっとデュエル強くなりたいなぁ」
「…あと一年頑張ればいい」
「亮に一回ぐらいは勝ちたいし?」
「ふ、負けるつもりはないがな」
「言ったな…帝王の座から引きずり落としてやる」
「それでお前が女帝か?……似合わないな」

反動をつけて亮がソファーから上半身を起こす。足を床に下ろして簡単に伸びをする膝の間に名無が入り込む。

「あれ、起きちゃうの?」
「元から寝る気はなかったしな」

亮は膝の間の名無を引き寄せる。
名無の瞼に軽く口付けを落として亮は額をこつんとつけた。

「あ、そうだ亮」
「ん?」
「弟さん、入ってくるんでしょ?えーと……翔くんだっけ?」
「あぁ」
「紹介してね、凄く楽しみ」
「…………………名無」

額が離れたと同時に唇が重なる。
啄むような軽いキス。
ソファーの高さ分の差を埋めるように名無は少しだけ身体を持ち上げて、せがむ。

雛が餌をねだるような名無。
親鳥は嬉しそうにそれに応えた。





名残惜し気に離れた二人の唇には、確かに熱が残っていた。
名無はそのまま亮の腕の中、幸せを噛み締める。

穏やかな生活もあと一年。
まだあと一年あるのだと高鳴る胸に言い聞かせた。





Up、09/04/13


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