淀んだ迷路図


淀んだ迷路図





「感心しないな」

何故というふうに眉を潜めた丸藤亮の声。
潜めた下の瞳は強く私を睨んでいた。
「わかってるわよ、だからほっといて」
「それは出来ない」
「はいはい、見せかけの正義感はやめて頂戴」
私は亮の怒りを煽るだけ煽って缶チューハイの甘さを飲み干す。

止まらないその勢いは新しい缶のプルタブヘかかる。

「やめろ!」

開きかけたチューハイをとりあげられた。
中身が少し彼の手に飛び散り、琥珀色の雫が伝う。
私はそれに手を伸ばしてーー舌をはわす。

「ーー!?」
「ふふ…美味しい」


彼は何故自分がこんな事をするかわからないのだろう。
亮にとっての私の存在は


「恋人」

「……」

「私は貴方の恋人、でしょう?」

「……当たり前だろう」

怒気を孕んだ声に亮は怯まず私を見下ろす。


届かないのは、踏み出さないから?
虚ろな淵に立つ私を、見て。


「ねぇ……お酒ってまずいのね」
「だろうな、お前にはまだ早い」




「じゃぁ貴方と別れてからなら美味しく感じるかしら」
「ーーっ!?」

「幸せじゃないもの、私。だからきっとお酒も美味しく感じないのよ」


からっぽの缶をはじくと、少しだけ不愉快な金属音をたてて机からフローリングの床へ転がり落ちる。


からからと、辿り着いた先は亮の足元。




「…すまない」
「忙しいのでしょ、ならこんな酔っ払いに構ってないで用意しに自分の家に帰りなさい。今度はどこ?いつまで?」
「アメリカのタイトルマッチだ……明日の朝いちで日本をたつ。勝ち進めば……一ヶ月くらいだな」
「そ、身体に気をつけてね」




「一緒に…こないか」

「……無茶言わないで、私だって仕事があるの」

「…………そう、だな」
「私、お酒を美味しく呑みたいんだけど」


「………………俺は、…まずいなら呑まなくて…良いと思う」

「素面で過ごせない月夜だってあるのよ」
「………どうして、欲しい」
「………………わからないわ」

振るえ始めた私の肩を、ゆっくりと近づいた亮が抱き寄せてくれる。


「もう少し…もう少し待ってくれ」
「……嫌だなんて言えない事を知ってる癖に」



淵から覗いた穴は

どれくらいの深さだったのだろう。







(貴方に迎えに来る勇気なんてない癖に)
(お前に別れる強さはないだろう)





Up、08/12/01


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