賢者のハイラート1


「はぁ?婚約?お前が?」
「あぁ縁談があった。受けようと思う」

ノクティスは疑いの目を

「えーっと。も、もちろん王都の人だよ、ね?」
「そうだな生まれも育ちも王都と聞いている」

プロンプトは驚きの目を

「あー・・・まぁ俺らもいいお年頃ってやつだしな」
「グラディオ、お前もいつまでも逃げ回れないぞ」

グラディオは同情の目を

「というわけで、だ。1週間ほど連絡がつきにくくなると思う。その間グラディオ、プロンプト。王子を頼む」

イグニスはいつもの通り、メガネのブリッジをあげてそう言った。


賢者のハイラート



イグニス、スキエンティア
スキエンティアといえば、おそらく城にいる者はその家柄を知らないものはいないだろう。
代々王に使える執事の家系。現に今は王レギス、王子ノクティスに1名ずつ仕えている。
特にノクティスの従者イグニスは聡明で博学、眉目秀麗な青年である。
齢を重ねて18年。浮いた話も出なかったそんな彼に、婚約の2文字。

幼い頃からを知るその主たるノクティスとその友人プロンプト
目下二人の最近の熱い話題は共通の友人ともいえる彼の婚約話だった。



金曜日の授業後という解放感から、少し遠いゲームセンターへ行った帰り道。
2人はジャンクフード店でその小腹を満たしながら、夜を迎えようとしていた。

「ねぇノクト」
「んー?」
「イグニスっていままで付き合ってた人とかいるのかな?」
「さーなー。でもいないんじゃね?だって見たことねぇもん」

ノクトの中で自分のそばにいる従者はいつも一人だった。
もちろんそういう話をしたことがないわけではないが、からかえば一言。

「あー、お前が立派な王になるまでは恋愛なぞ考えられん。って言われたこともあったっけ」
「げー、それもう堅物通り越してやばくない?」
「だよなぁ。むしろ俺、嫁にいくんじゃね?って思ってた」
「あははは、確かに料理上手だしねぇ、お嫁に行けるかもね。ノクトっていう子供付きでさ」
「んだよそれっ!」

ポテトに手を伸ばすノクトは、わざとプロンプトの箱から長いポテトを奪って
仕返しとばかりに笑う。
あぁおれのポテトぉと情けない声のプロンプトはお茶の入った紙コップへ手を伸ばす。

「あぁでも昔ラブレターもらってきたことあったっけ」
「え、マジ?いつごろ?」
「んー俺が中学だから・・・高校くらいか?」
「え、結構最近じゃんそれ。でどうなったの?」
「断ったってさ」
「いやいや、それはそうだろうけどさ。その、どう断ったのさー」
「知らねえよ、なんか学校の女子からもらったらしいからさ。でもちゃんと会って断ったって言ってたっけ」

あの表情に乏しいイグニスが、断りをいれるところを想像したのかプロンプトはほへー、と何とも間抜けた声を出す。
そしてうんうんと勝手に納得したように腕をくんだ。

「うん、俺想像ついたよ」
「そうかよ」
「むしろ告白にオッケーするイグニスの方が想像つかない」
「あー・・・・だな」

だからこそ件の婚約が驚きなのだが、とノクティスは最後のポテトを口に放り込む。
外を見れば楽しそうに寄り添い合い歩く恋人たちの姿が見れる。
その中にイグニスが混ざるなんて考えてもみなかった。
口うるさいあの男が、微笑みかける人ができるなんて。

「あ」
「どした?」
「あ、うーん、いや・・・えーと何でもない」

外からプロンプトに視線を戻せば、だから何でもないって!とオーバーな位に手を振る。

「何ごまかしてんだよ、何だよ言えよ」
「や、あの、その何でもないかなー、なんて・・・」
「プロンプト?」
「うー・・・怒んないできいてね?ノクト」
「内容による」
「えー、そんなぁ」
「冗談だよ。はよ言えよ、怒んねぇからさ」

ほんとに?とストローでさほど残っていないお茶をずずと吸いあげて、ためらいがちにプロンプトはその青い目を伏せた。

「イグニス、本当にその人のこと好き、なのかなぁ」

するり、と結露した紙コップがノクティスの手から滑る。
あまりにもイグニスが普通にしていたため、そこを失念していた。

「あ、あー・・・・どうだろな」
「断れなかった、とかじゃない、のかな。イグニスに限ってそんなこと、ないよね?」

自由奔放にしてきたノクティスにも、ある程度臣下の序列はわかる。
が、断れない縁談だったのでは、とその可能性をプロンプトに提示されるまで思い浮かばなかった。
自身の両親は、気恥ずかしいがそれは仲睦まじかったと聞いたことがある。
思い浮かぶ臣下としてグラディオとイリスのアミシティア家も2人をみれば明らかだ。
恋愛=結婚という式が成り立たない、城の中という世界でノクティスの周りは比較的良縁だったらしい。
ルシスの一般市民を口癖とするプロンプトが不敬にあたるのではと、びくびくしながら口にした可能性がおもい浮かばなかったくらいに、だ。
しかしイグニスがそんな権力云々で結婚するなど首を縦に振るはずない。
ないと思うのだ。がノクティスとプロンプトは黙ってしまう。

それが、イグニスという男だからだ。

「イグニス・・・婚約するのいつだっけ?」
「正式には来月、とからしいけど会うのは今週らしい」
「そっかぁ・・・大丈夫、だよね」
「、多分な」
「そいえば相手の人、どんな人か詳しく聞けてないね」
「そーだな・・・また聞いとくわ」

まぁ帰ろうぜ、と話を切り上げるノクティスにプロンプトはうん、と小さな返事をしてトレイを持ち上げた。



up20170708


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