That’s unlikely


王都警護隊隊長、コル、リオニス。
今上の王、レギスの信頼も厚く
不死将軍などという大層な異名をもらい、さぞ強面でお堅い男だろう。
会ってみたらその通り。気の利いた冗談も言えない無粋な人、軍人なんてそんなものかしら。
と結婚前には思ったものだが
寝台で横になる夫を化粧台の鏡越しに見れば、間違ってはいなかったがそれが何よりもいとおしく思えた。


That’s unlikely


夫婦の寝室。
城から少し離れたところにあるリオニス宅。
将軍職についている者の家、というよりは軍人が休んでいる寄宿舎といった感じの素朴な家の一室に二人はいた。

コル、リオニスとその妻、ナナ、リオニス

飾り気のない部屋の中で、ナナの髪を櫛削る音だけが響く。
久しぶりに共に揃って寝台に潜れることを、どこか
ナナは嬉しく、そして少し気恥ずかしく感じた。
鏡をみて髪に乱れはないか、唇は荒れていないか。
念入りに確認してしまう自分に気づいて更に気恥ずかしさはあがる。
もう気恥ずかしさなんてとうの昔に夫に捨てられたはずなのに。
ふと再び鏡越しにコルをみれば、端末に手を伸ばしていた。
そんなに退屈させたかと、慌ててブラシをしまいベッドへ走る。

「どうした?」
「・・・いいえ、何でもありません」

端末を見ていた黒い瞳が、自分を見つめるとやはりどうにも落ち着かなくなる。
彼の隣に横座りで腰ををおろせば、掛布を足に寄せてくれた。
ベッドへかけてきたのは寒いからではないというのに。けれどもその優しさが何よりも嬉しいのだ。

ぴろん、と電子的な音が彼の端末から響く。
メールだろうか、コルの指が何度か画面を叩く微かな音。
仕事、だろうか。平和に流れるインソムニアの時間だが、紛れもなく戦中である。
コルの眉がぴくりと動く。

「お仕事ですか?」
「いや」

続けて指が動くところをみると、返事をしているようだ。
仕事ではなくプライベートでこの時間のメール。
やましいことなどこの男にあるはずもないので、まったく心配はしていない。

「明かり、消していいぞ」
「えぇ」

枕元に置いてある照明用の端末で部屋の明かりを最小まで下げると同時に、返事をうち終わったのかコルも端末をナイトテーブルに置いた。
ふぅと一息つく彼の胸にそっと手をおいてみる。
闇の中になら、恥ずかしくないかと思ったが、そうでもないようだ。

「クレイラスのところの第2子、無事に生まれたそうだ」

引きかけた手をが思わず止まる。
あまりにもさらりというものだから、思わずアミシティア家の?と聞き返す。
そうだ、と再び何ともないように答える彼の表情は暗闇に目が慣れず伺えない。

「まぁ!・・・おめでたいですわね!」
「そうだな」
「男の子でしたか?女の子でしたか?」
「女だそうだ」
「それならクレイラス様もグラディオラスも可愛くて仕方がないでしょう」

今年でグラディオラスは確か8歳。若干歳が離れた妹はきっと可愛くて仕方がなくなるだろう。

「アミシティア家の女の子なら、お転婆さんになるかしら」
「生まれたばかりだ、わからんだろう」
「・・・そうですわね、グラディオラスが過保護なお兄様になって意外に大人しく慎ましやかな妹ぎみになるかもしれません」

アミシティア位の家柄ならそう望まれるかもしれない。
生まれてきた彼女が、思うように生きてくれればきっとそれでよいのだけれども。
毎日の繰り返しの中で、誰かの幸せを祝えること。
心がじんわり晴れやかな気分になる。

「お会いできる日が楽しみですわ」
「あぁ」
「お祝い、いかがいたしましょう」
「・・・任せる」
「わかりました。けれども相談にはのってくださいませ」
「・・・善処する」

暗闇に慣れ始めた目にはコルの不平そうな顔が映る。
思わず笑みがこぼれてしまう。
夫婦になって一番見ている顔かもしれない。
言葉数の少ない夫には一言言いたくなるものだ。

「ナナ」
「はい?」
「寝ないのか?」

胸に置き忘れてた手がそっと握られた。
夫の武骨な手で包まれると胸の奥が捕まれたように苦しくなる。
晴れやかな気分に温められたもっと奥、自分を司る基底の部分が握られたような気になるのだ。

あぁ、苦しい、本当に、なんて、愛おしい人。

ゆるり、と横になれば腕の中に閉じ込められた。

「ナナ」
「はいあなた、何でしょう」
「結婚して、何年だ」
「・・ま、お仕事のことは忘れないのに。そろそろ5年になりますわ」
「もうそんなになるか」
「まだそんなに、です」
「あぁ・・・そうだな」

髪に唇が落とされる感触に思わずふふふ、と肩が揺れるくらい笑ってしまう。
ここで甘い言葉は紡げないのが、コル、リオニスという男なのだ。

「いつか・・・」
「・・・いつか?」
「いつか私たちも家族が増えたら、海を見にいきましょう。昔見に行った映画のような、きれいな夕日の海を」
「・・・あぁ、そうだな。いつか必ずな」
「約束ですわよ、忘れないで下さいませ」
「忘れん。必ずだ、見に行こう」

コルに捕まれた苦しい胸がほどけてくると、安心からできる眠りの波が押し寄せてくる。
こんなにこの人の温もりを求める日が来るとは、思ってもみなかった。初めて会った日の自分に教えてやりたい。
腕の縛りがきつくなる。

「おやすみなさいませ、あなた」

頭の上から、小さく返事が聞こえた気がした。



up2017,0711


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