オクラ子孫の日輪月歩 | ナノ

その拾壱


「意外と行けるもんだな。」

伊達の鼻プラグによりやっと起動した携帯の中身を確認する。
え?ホントに鼻プラグしたのかって?
あぁ、したさ。
ついでに伊達の悲鳴じみた叫びを聞いて駆けつけて来た片倉が俺の邪魔をするもんだから、おまけで予備の充電までさせていただきましたが何か?

データも消えてねぇし、これで目的は達成したな。
自分でやっておきながらこう言うのもあれだが、電気の代わりに雷の婆裟羅が使えるとは思っていなかった。
半分は冗談だったんだがな。
まぁ結果的には成功したことだし、いいか。

「それにしても、この顔は……ぶふっ。」
「あんまり笑うなって、独眼竜がかわいそう…ぶっ!!」
「てめぇら…いつか覚えてろよ。」
「政宗様にあんなことした覚悟は出来てんだろな…?」
「あの顔見た後に凄まれても怖くねーよ。やっべ、これで当分は笑えるわ。保存しとこ。」
「てめっ!!」

携帯を弄る手目掛けて飛んで来る攻撃をかわしつつ画像を保存する。
また充電が切れたらたまらないので携帯を懐へと仕舞い、悔しそうに顔を歪める双竜の顔を見て、俺は嫌な笑みを浮かべた。

「約束は約束だからな。文句は受付ねぇ。」
「…分かってるさ。で、お前は何者なんだ?」
「あぁ……っと、その前に。」

予想通りの質問。
前方からの疑念の目を感じつつ、辺りの気配を探る。
周りに人の気配がないのを確認し、小さく息を吐き前を見据えた。

「俺の名前は毛利智就。この戦国の世から約4、500年先の未来から来た…毛利元就の子孫だ。」
「……未来?」
「アンタの好きな南蛮語で言ったらfutureだよfuture。ま、信じる信じないは勝手だがな。とりあえず、馬鹿な幼馴染の言霊のせいでここに飛ばされた毛利家の子孫。俺はそれ以外の何者でもねぇ。」
「未来云々は信じられねぇが、毛利の血縁者なのは顔を見た……」

パァン

乾いた銃声音が鳴り響いた。
一瞬の後に残ったのは、伊達の顔すれすれを通過してその後ろに空いた小さな穴。
そして、俺の手に持たれている銃から上がる小さな煙。
緊迫した空気の中、辺りの視線をスルーして銃を懐へと戻した。

「それ、俺にとっては禁句だから。」
「智就!?お前、何してんだよ!!」
「何って、見たまんまだが?」
「政宗様!!てめぇ…」
「stop小十郎、いいから刀を下ろせ。」
「しかし……」
「いいつってんだろ。これは俺にも非があったYou see?」
「……御意。」

片倉が大人しく刀を納める。
しかし、殺気は抑えることができないのか、殺意が直に突き刺さる。
そんな片倉を俺は負けじ睨み見返した。

俺が悪いのは分かっている。
確かに向こうは俺が一番嫌いなことを言った。
だが、それだけだ。
理由だって、そんな深刻ものがあるわけではない。顔が似ているだけ。
今、何に一番頭に来ているのかって聞かれたら、それだけで頭に来て銃をぶっ放した自分が一番ムカつく。
……ホント、俺も子供だよな。

「Ahー、sorry気分を害して悪かったな。」
「……俺の方こそ悪かった。子供じみた癇癪で他国の国主に銃ぶっ放して。」
「誰にだってcomplexはある。……だろ?」
「……あぁ。」
「で、未来から来たって言う根拠はあんのか?」
「それはだな……」

ピピピピピピ

空気を読んだように懐の携帯が鳴り響く。
伊達に了承を得てから携帯を取り出し、ディスプレイに表示された鶫の名前を確認すると迷いなく通話ボタンを押した。

「もしも…」
『やっほーみんなのアイドル鶫ちゃんだよ☆』
「……」

スピーカーモードにしていたせいで聞こえた鶫の痛いセリフに沈黙が落ちる。
アイドルという単語の意味は分かっていないんだろうが、ニュアンス的になんとなく分かっているのだろう。
俺や一度鶫と話した元親はもちろん、初めて鶫の声を聞いた伊達や片倉まで顔が引きつらせていた。

『あれれれ?凄く沈黙が痛いんだけど。智就ー生きてる?』
「……お前の頭の残念さに言葉を失ってたんだよ。」
『相変わらずの辛辣なお言葉!!それでこそナリ様よ!!』
「黙れ。」
『あ、そういえば我らがアニキと元就様は!?』
「おい、話を聞け。」
「久しぶりだな嬢ちゃん。」
『アニキー!!いつも智就がお世話になってますー!!』

完全に腐女子スイッチの入った鶫は元親との会話に夢中でこっちの話なんか聞いちゃいねぇ。
小さくため息をついて、呆気に取られた様子の伊達と片倉に顔を向けた。

「さっき言ってたあれが証拠だ。」
「あの小さい箱から女の声…?」
「どうなってんだ?」
「仕組みは知らん。だが、あれは未来からかかって来ている電話……伝言のようなものだ。」
「Hum…未来ではあんなものが世に溢れ返ってんのか?」
「まぁ、それなりにな。」
「じゃあ、天下は誰が…」
『はっ!そのエロティックなボイスはまさか…政宗様でありますか!?』

タイミングを見計らったかのようにこちらへ声をかけて来た鶫に、不本意だが心の中で感謝する。
会話を邪魔された伊達は少し嫌そうに携帯へと視線を向けた。

「あぁ、そうだが……お前は?」
『キャー!!智就マジGJ!!てか、政宗様がいるっていうことは、こじゅも近くに!?申し遅れました!!私、智就の幼馴染の大谷鶫っていいます!』
「大谷…?」
「おい、こじゅってもしかして……」
「片倉のことだが?」
「こじゅ……」

何が気に障ったのか分からないが、少し落ち込んだ様子の片倉に首を傾げる。
まぁ、鶫の話はいろいろ一般人にはキツいものもあるからな。多分それにあたったんだろ。
ご愁傷様。

『それで、アニキは智就とどのくらい進みましたか?』
「何がだ?」
『そりゃあ、智就と……』
「いい加減にしろ。腐女子。」
『もうっ智就ったら照れ屋さんなんだからぁ!!』
「話を聞けつってんだろ。」
「智就、アンタの幼馴染ってのは面白いな。」
「頭が可哀相なだけだ。」
『なんと政宗様まで智就と仲良さげ!?まさか……!!』
「お前の思っているようなことにはなっていないから安心しろ。で、どうしてまた携帯が繋がったんだ?」
『あ、そうだった!!』

思い出した、いう様子の鶫に頭を抱える。
ホントお前は何をするために電話をかけて来たんだ。
こっちは電気がなくって苦労して尚且つ、まともな充電なんて出来やしないってんのに。
しょうもないことだったらただじゃおかねぇ。



『智就、現代への帰り方が分かったんだよ!!』

前言撤回。
ナイス鶫。
とんでもない吉報じゃねーか。



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